五百四十五話 武器を扱う体を鍛えよう

「「「「「「「「…………」」」」」」」


「はっはっは!! 皆ぶっ倒れてるな」


「そりゃそうだろ。超Aクラスの二人が相手だ。いくら大きな才能を持つ学生が束になって挑んだとしても、絶対に勝てるわけがない」


授業終了の三分前、生徒全員が地面に突っ伏していた。


ミレアナとザハークとの模擬戦が終わり、全員が腹にパンチを貰って終了。


(ザハークの奴、女子生徒相手でも容赦ないな)


女子だからといって手加減することはなく、男子と同じ強さで腹パンを決めた。


「さて、身を持って解ったと思うけど二人は超一流だ。だから、お前らは二人に束になっても勝てず、善戦も出来なかった。それを悔しがるのは良いけど、絶望する必要はない……経験してる実戦の数と密度が違うからな」


コテンパンにプライドと自信が木端微塵に砕かれるほどにやられた。

思い上がっていた心がバキバキのボコボコに潰されてしまった。


生徒たちが自分の強さや、今までの努力に不満を持ってしまう気持ちは解らなくない。


だが、ミレアナとザハークは持っている物が違う。

それに加えて、戦闘経歴も尋常ではない。


「とりあえず、一限目はこんな感じで良いかな」


「あぁ、生徒たちの伸びきった鼻はばっきり折れてみたいだしな」


油断していた……なんて言い訳は通用しない。

ソウスケの実力を嘗めていた生徒は多くいた。


しかし、ソウスケは生徒たちが全力を出し切れるように速攻で終わらせることはなく、切り札を出させてから潰した。


(皆には悪いが、やっぱりこういった形での挫折は必要だからな……でも、負けん気が強いこいつらなら直ぐに立ち直れるだろ)


自分たちより歳下の子供に負けるというのは、確かに屈辱だ。

ダイアスも出会い方が違えば、ソウスケの実力を侮っていた可能性はあった。


ただ、担任をしているからこそ生徒たちの向上心の高さは知っている。


「もうそろそろ授業が終わるし、一限目はここまでだ。次は講義だ……まっ、ダイアス先生みたいな細かい内容はあんまり教えられないけどな」


「先生付けは止めてくれよ、ソウスケ君にそう呼ばれるのはむず痒いぜ」


「そうか? なら、いつも通りに呼ばせてもらうよ」


「そうしてくれ。それで……あいつらに何かアドバイスの一つぐらいないか」


「アドバイス、か……鍛えて努力はしてるんだろうけど、まだまだかな。武器の扱い方を鍛えるのも良いけど、武器を振るう己の体を鍛えることに、もう少し力を入れても良いんじゃないか?」


ソウスケは既に高レベルまで達しているため、今のところ体を鍛える重要性を感じていない。

だが、ザハークは従魔用のスペースで暇な時間に筋トレをしているところ、僅かながらに戦いに影響が出ていることが解った。


「体術をメインで戦っている奴は自身の体全身が武器だと認識して、攻撃を行ったりした方が良い……そんなところかな」


ソウスケなりにアドバイスを伝え、ダイアスは十分に納得していた。

生徒たちはもう少し深いアドバイスはないのかと思ったが、ソウスケのアドバイスを理解出来なくはないので、トレーニングメニューを変えようと思った生徒が多数いた。


ただ……攻撃魔法をメインで戦う生徒たちは「えっ、自分たちにアドバイスはないの?」という顔でポカーンとした表情で固まってしまった。


「とりあえず今日はこれ以上体を動かす授業をするつもりはないから安心しろ。それじゃ、二限目に遅れるなよ」


「「「「「「「「は、はい」」」」」」」」


生徒たちはなんとか声を振り絞り、返事を返した。


そしてソウスケたちが訓練場から出て行くと、ようやく口を開き始めた。


「……あの人、いったい何者なんだ?」


ミレアナとザハークが強いというのは戦う前からなんとなく解っていて、実際に戦って半端ないほど強いということが解った。


しかし、ソウスケの強さは完全にカモフラージュされていた。

そしてソウスケという名の冒険者が知れ渡っていないことに対し、生徒たちは疑問を抱き始めた。


「確かに、俺たちより歳下であそこまで異次元の強さを持ってる冒険者なんて聞いたことないな」


「そもそも人族の少年と、エルフの超絶美人と人の言葉を喋るオーガって組み合わせのパーティーを聞いたことがない……いや、そんなパーティーなら直ぐに広まると思うのだけどね」


「だよな、それは俺も思った……学校が終わったらちょっと情報収集しようかな」


生徒達の中で既にソウスケへの嫉妬や憎しみの様な負の感情を抱いている者はおらず、不思議な組み合わせで活動している三人に興味を持つ生徒が多くいた。

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