四百六十六話 あり得なく無い進化
「モンスターとは遭遇するが、お目当てのモンスターとは中々遭遇しないな」
「そうですね」
現在ソウスケ達はレッドゴブリンと交戦中。
レッドゴブリンは通常のゴブリンと比べて身体能力が高く、上位種のメイジではなくとも火魔法を使うことが出来る個体が多く存在する。
「はっはっは!! 中々楽しめるじゃないか!!!」
「……ザハークは相変わらずな様子だな」
基本的には運悪くと表現すべきだが、ソウスケ達にとって……特にザハークにとっては運が良く、群れのボスとしてレッドゴブリンジェネラルがいた。
そいつを見つけた瞬間、ザハークは一応ソウスケに自分が相手をして良いのか尋ねた。
それに対し、ソウスケは魔石さえ無事であれば問題無いと変えす。
「肌の色が違うだけで、普通のゴブリンとここまで強さが違うとは」
「肌の色っていうより、そだった環境が原因なんじゃないか? 火山付近に生息するモンスターは森の中に生息するモンスターより平均的な強さが上だからな」
周囲に生息するモンスターが生息するならば、必然的に強くならなければ生き残れない。
「レベルもそこら辺のゴブリンと比べて高いだろうな」
鑑定を使っていないが、それでも雑魚と認識するゴブリンよりは強いと解る。
(てか、今更だけどザハークって元ゴブリンなんだから同じゴブリンである相手には多少の同情的な感情は……うん、無さそうだな)
レッドゴブリンジェネラルは自身が逃げ切れないと悟り、両手に持っている手斧を使って必死に応戦している。
それに対してザハークは嬉々とした表情で武器を一切使わず、素手で応戦。
「こっちは全部終わったし、一先ず一か所に集めて魔石とこいつらが持っている武器だけ回収しよう」
モンスターが持っていた武器でも使い道があるというのは前回の戦いで身に染みて解った。
だが、モンスターの武器まで回収するという行為は、三人には理解出来なかった。
「あの……なぜ、武器まで回収するのですか?」
「一応使い捨ての武器として利用出来るっていうのが利点だが……上位種が使っている武器って、案外使える武器があるんだよ。この前、ゴブリンパラディンっていう聖剣術のスキルを習得しているゴブリンと戦ったんだよ」
「ゴブリンが聖剣術をっ!!??」
予想外の情報に三人共口元を抑えて驚く。
三人にとって、聖剣術とは正しき心を持ち、選ばれた者のみこそが扱える剣術という認識。
それが真っ向から否定された気分だった。
「言っとくけどマジだぞ。俺も心底驚いた……でも、モンスターが何を考えて生きてるのかなんて分からない。もしかしたら……そいつはゴブリン特有の性欲はあっても、仲間を守りたいって欲が大きかったかもしれないだろ。だからそういった進化の道を辿ったのかもしれない……なんて事も考えられる」
「そ、それは……く、悔しいですが、完全には否定出来ませんね」
「だろ。それで、そいつが持っていた剣が醜鬼の聖剣になっていたんだ」
「……すみません、少々頭が痛くなってきました」
いきなりとんでもない情報を次々ぶっこまれた三人の脳内は爆発寸前。
ゴブリンが聖剣術を覚え、持っている剣が聖剣になる……彼女達の常識からは考えられない進化だ。
「これが実物だ」
一か所にレッドゴブリンの死体を集め、魔石と武器を回収し終えたソウスケは三人に醜鬼の聖剣を見せる。
「な、何と言いますか……不思議な雰囲気を放つ聖剣ですね」
「そりゃそうだろうな。元はモンスターが持っていた聖剣だ。人からすれば、ただの聖剣とは異なる感覚を感じるだろう。俺達にとっては聖なる存在と邪なる存在が共存しているような感覚じゃないか?」
「は、はい。そういった感覚です」
三人に醜鬼の聖剣を見せ終えたソウスケはアイテムボックスに入れ、ザハークとレッドゴブリンジェネラルの戦いに目を向ける。
「話は戻るけど、正義の反対は悪……では無く、別の正義があるかもしれない。貴族の子供として育ってきた者と、暗殺者の子供として育ってきた者の価値観や正義は違うだろ」
「そう……ですね」
「だから、モンスターにもモンスターなりの正義があって行動してるのかもしれない。だから、俺はゴブリンパラディンの進化に笑いはしたが、あり得ないなとは思わなかった」
それはファンタジーな世界を読者として見ていたからこそ出てくる、ソウスケの意見だった。
(まっ、頭がぶっ飛んでる人や変人て呼ばれてる人達は俺と同じような事を考えてるだろうけどな)
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