四百十五話 体質故の強さ

「ん? もしかしたら……別に助けに行かなくても良かったか?」


よろしくない音が聞こえる場所に向かうソウスケだが、だんだんと戦闘音が小さくなり、逆にモンスターの悲鳴だけが響いていく。


(要らぬお世話だったかもしれないな)


戦闘音が聞こえなくなった場所からはモンスターの死体の匂いだけが漂ってきた。


(これは……ゴブリンの死体か??)


嗅覚上昇のスキルを使用したソウスケの鼻は死体の匂いがどのモンスターの匂いなのかを判別出来る。

そして、その死体が一つだけでは無いという事も分かる。


ゴブリンの死体が複数あると分かった場所にソウスケが辿り着くと、そこには一人の少年が血塗れになりながらもその場に立っていた。


「……あっ、えっと……その」


「あぁ、別にお前をどうこうする気は無いから安心してくれ。ただ、ゴブリンの血の匂いに惹かれて他の魔物が来る前に死体を隠した方が良いと思うぞ」


「そ、そうですね」


嗅覚が優れたモンスターならば、遠く離れた場所の血の匂いさえ嗅ぎ取る。

一人では死体を埋めるのも大変だろうと思い、討伐証明部位になる耳と魔石を剥いでから地面に穴を空けて埋めていく。


横目でゴブリン達と戦っていた少年を見ると、予想外の方法で地面に穴を空けていた。

その行動でソウスケは鑑定を使わずとも、直ぐに普通ではない事が解った。


(素手で地面に穴を開けようと……普通は考えるか? でも、手に魔力は纏えている訳だし問題は無いか)


体に魔力を纏って強化する。

それは戦う者にとって当たり前の技能ではあるが、相当慣れている事が解る。


「ほい、魔石と耳」


「ありがとうございます!!! えっと、俺グランって言います。ランクはEです」


グランはソウスケの雰囲気と見た目から自分と同じで冒険者だと分かり、更に自分よりも実力が上だという事も解かった。

なので年齢はさほど変わらないかもしれないが、とりあえず敬語を使う。


「そうか、俺も同じEランクなんだ。名前はソウスケだ」


「えっ、自分と同じランクなんですか!? てっきりもっと上の方かと思いました」


「はっはっは、ありがとな。でも、俺はあんまり上を目指す気が無いからかな。だから冒険者活動は結構のんびりとしてるんだ」


「そ、そうなんですか」


一応上を目指す気持ちがあるグランとしてはあまりソウスケの考えが解らなかったが、それでもソウスケから強者の余裕を感じ取っとり、お調子者では無い事も解かった。


「グランは素手で戦うのが戦闘スタイルなのか?」


「はい。自分は子供の頃から他の同年代と比べて力が強いので自然と素手で戦うようになりました。偶にハンマーとかも使いますけど、基本的には素手です」


「子供の頃から、か・・・・・・グランは、もしかして身長のわりには体重が重かったりするか?」


「は、はい! そ、そうなんですけど……よ、良く解りましたね」


まだ会って数分ほどしか経っていない相手から自分の特徴を見抜いたソウスケに対してグランは驚きを隠せなかった。


だが、ソウスケとしては子供の頃から同年代と比べて力が強いという内容からいくつか仮説が立ち、最初の訊いた内容が合っていただけ。


(一番可能性が低い内容を訊いたつもりだったんだが、まさかあってるなんてな)


ソウスケはグランの筋肉繊維が常人よりも多いから、子供の頃から同年代と比べて力が強かったのではと考えた。


「何となく……まぁ、けっこう勘で当てたって感じだけどな。にしても……ゴブリンぐらいが相手じゃつまらなかっただろ」


「えっと、つまらないと言いますか・・・・・・そこまで強いとは感じませんでしたね」


「だろうな」


レベルに合わない体を持っているグランではゴブリン程度の防御力では話にならず、たとえ攻撃をモロに喰らったとしても大したダメージにはならない。


グランは冒険者の中では特殊な分類だろうと考えたソウスケはアイテムボックスの中から二つのスキル書を取り出した。

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