四百話 禁句に近い
ミレアナとザハークにボコボコにされた四人は野次馬の中に居た回復魔法を使える者に傷を癒してもらい、なんとか立つことが出来た。
「あんたらか。俺の仲間にちょっかいかけたのは」
「いいや、ただ勧誘しただけさ。うちのクランに入らないかと」
「バーーーカ、この二人が勧誘されただけでキレる訳無いだろ」
ギルド職員から大方の話は聞いているソウスケは男の嘘を鼻で笑う。
「どうせあれだろ、俺の事を馬鹿にしたかもしくは下に見る様な発言をした。それなら二人がキレたのも納得がいく。少し前にも似たような事があったからな」
「俺をあいつらのような下心が透けて見える連中と一緒にしないでもらおうか」
「……まぁ、流石に全部は一緒だと思って無いよ。でも、相手の力量を見切れなかったという点は一緒だろ」
「・・・・・・」
ソウスケの核心を突く言葉に男とその仲間は何も言い返すことが出来ない。
それもそのはずで、四人はミレアナとザハークに傷一つ付けることが出来ずに負けてしまった。
もしかしたら四人で戦っても負ける可能性はあるかもしれない。
そう考えていた四人だが、連携など発揮する間もなくボロ雑巾のように倒された。
「認める。しかし、君と一緒ではミレアナさんも従魔のオーガも、その実力を腐らせてしまう。君を子守りしていることでだ」
負けた、完膚なきまでに負けてしまった。
それでも男はその考えだけは譲らなかった。
情報を集めた限り、上に登れる実力がありながらランクを上げようとせず、挙句の果てに自分は何処かに籠って仲間に金を稼がせる。
轟炎の鉄槌というクラン、組織に身を置いている男からすればその様な愚行は許せなかった。
それに対し、再び自分の仲間を侮辱されたミレアナとザハークの目に敵意が宿り、今度は殺しはせずとも重傷を負わせるという意思が感じ取れる。
だがそれをソウスケは片手を上げて静止させた。
「随分と教育熱心な考えを持ってるようだな。そんなに教育がしたいんだったら学校の教師にでもなったらどうだ。そこそこ大きいクランに所属していてCランクの冒険者だったんなら、どの学校からもまぁまぁ良い待遇で迎えられるんじゃないか?」
私塾や戦いを学ぶ学校があることはソウスケも知っており、教師の中には元冒険者が多い。
「話を逸らさないでもらおうか。君の我儘が彼女と彼の才能を潰そうとしているんだ」
「……はぁーーーーー。あんたさぁ……俺らの何を知ってる訳? 俺達がどうやって出会ってパーティーを組んでるのか、休日はどうやって過ごしてるのか、冒険中の役割は誰が何を行っているのか。そんな事を知らないくせに良くそんなにほざけるな」
「ッ!!! 君が彼女を稼ぐ道具として使っているのは明らかだ!!!」
明らかに年下である後輩の冒険者にあまりにも生意気な言葉を投げつけられた男はつい興奮してしまい、ミレアナにとって禁句に近い言葉を出してしまった。
男との言葉に先程まで流石に殺してはダメだと繋ぎ止めていたミレアナの理性が我慢の限界を迎える。
奴隷は買ってくれた主人の為に自らの役割を全うする。
主人によって待遇は大きく変わるが、明るい未来がやってくる可能性は限りなくゼロに近い。
そんな奴隷だったミレアナをソウスケは一人の仲間として接し続けた。
それは暗い未来しか待っていないだろうと考えていたミレアナにとって正真正銘、奇跡といえる出会い。
ソウスケにとって普通の対応であったとしても、ミレアナにとっては神対応であった。
そんな自分にとって人生を救ってくれた救世主の様なソウスケを侮辱した男に殺意が湧かない訳が無い。
だが、意外にも冷静であったザハークがミレアナの歩みを止めた。
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