二百九十五話 疑問に思う傷跡

「うっわぁーー・・・・・・中々に迫力のある戦いだな」


声を荒げながら戦っている二体のモンスターの正体はクラッシュベアという熊系のモンスターだった。

周囲に他のクラッシュベアがいない事からソウスケは何故二体のクラッシュベアが争っているのか益々解らなくなる。


(周りに他のクラッシュベアがいないって事は群れのリーダーを決める為の戦いって訳じゃないんだよな。それなら一匹のメスを奪い合う戦いって訳でもないんだよな)


周囲に一匹も同族がいない状況で争い合うクラッシュベアの目的は何なのか?

ソウスケとしては漁夫の利を得る考えより争いの理由が知りたいという気持ちが大きくなっていた。


(もしかしてあれか。ヤンキー同士が目が合ったやメンチきったのどうたらこうたらっていう理由で争っているのか? だとしたら物凄くしょうもない気がする。にしても・・・・・・マジで遠慮無いな)


人の二メートルは優に超える体格から容赦なく放たれる拳に蹴り、お互いの体を斬り裂く爪撃。

しかしそれらの攻撃によって与えられたであろう傷よりもソウスケは気になる傷があった。


(あれは拳や蹴りや爪による攻撃で抉れた傷なのか? けどこう・・・・・・攻撃を受けた一部がそのまま潰されて無くなった様な傷跡だな)


両者攻撃を受けた一部が完全に無くなっているため、出血量が尋常では無い。

このまま戦い続ければ出血多量が原因で例え目の前の勝負に勝ったとしてもそのまま死ぬのではと思える程の傷を二体のクラッシュベアは負っている。


(俺の勝手な推測だが、もう二体ともなんで自分達が争っているのなんか忘れてるんじゃないのか? 戦いの傷的にも後に引けないから全力で目の前の敵を倒そうと戦っている。そんな気がするな)


既に相手に勝ちたいという野性的な本能で戦っているのだろうと思いながらソウスケが気付かれない様に観戦していると、片方のクラッシュベアの張り手が決め手となり勝負が着いた。


戦いに勝利したクラッシュベアは森に轟く様な雄叫びを上げるが、勝利の代償は大きくフラフラな状態になっている。

戦いが終わったのを確認したソウスケはゆっくりと隠れていた場所からクラッシュベアの前に姿を現す。


「凄い戦いだったな。何が理由で戦っていたのかは知らないけど良い戦いだったと思うぞ」


いきなり目の前に現れたソウスケにクラッシュベアは勝利の余韻に浸っていた気持ちがなくなり、ソウスケの身なりから直ぐに敵だという事が認識出来た。


「はは、切り替えが速いな。それでこのままあと十分も経てばお前は出血多量で死ぬと思う。まぁ、俺と戦っても死ぬと思うけど」


ソウスケの言葉にクラッシュベアは反応しなかった。

四足歩行の構えとなり、臨戦態勢をとる。


「だからどっちを選ぶか。そう聞こうと思ったんだけど・・・・・・必要無さそうだな」


死の一歩前に近づきながらも直ぐに戦う姿勢を見せるクラッシュベアを見てソウスケもグラディウスを抜く。

その瞬間にクラッシュベアは駆け出し、右腕に残っている力を全てを込めてソウスケの頭部を狙う。


(その攻撃は、貰いたくないしっ、受け止めたくもないな!!!!)


本能的な部分でソウスケはクラッシュベアの一撃を避け、左腕からも即座に離れて斬撃を放つ。

斬撃はクラッシュベアの首元を斬り裂き、ついでに右腕をも斬り落とした。


首を落とされた事で命が尽きたクラッシュベアだったが、体の勢いは止まらずそのまま地面に体がぶつかる。


「さてさて、最後の執念の一撃は・・・・・・あぁーーーーー、何となくこいつが持っているスキルが解った」


クラッシュベアの右腕が触れた部分が無くなっているのを見て、ソウスケはクラッシュベアを鑑定して自身の予想が正しいのかを確かめる。


「圧潰。これが疑問に思っていた傷跡の原因か」


掌に触れた部分を圧力によって潰すスキル。

相手の守備力や特性、レベル差によっても効き具合が弱くなり、効かない場合もある。


しかしソウスケからすれば普通に強力なスキルだと感じだ。


「このスキルが有れば圧倒的な握力が無くても相手を握り潰せる? 的な感じの事が出来るんだよな」


自身のレベルがそこそこ高い事もあり、ソウスケは自身が戦った方のクラッシュベアを直ぐに蛇腹剣に吸収させた。

そしてもう片方のクラッシュベア漁夫の利という事で周囲を警戒しながら解体を始めた。

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