二百八十二話花か果物か

「一階層から十階層の間でイレギュラーなモンスター強さを持つモンスターと考えるとランクはCぐらいか?」


「・・・・・・それは正直分りません。本当にその場所へ向かって帰って来た者はいないので」


ザハークの記憶にはそこそこの種類のモンスターがその方角に向かい、その後そのモンスターの姿を見た事が無い。

そのモンスター達の中には勿論ザハークより強いモンスターが何体もいた。


「そりゃあ、中々に怖いな。でもその場所へ向かうモンスターは一定数いたんだろ?」


「はい。生まれて間もないモンスター等はその場所に行く事が多いです」


死ぬかもしれないと解っていても向かう場所。

それともその場所に向かったモンスター達はもしかして生きているのか。


その場所にモンスターを引き付ける何かがある。それだけはソウスケにも理解出来た。


「ちなみにその場所に向かったであろう冒険者達もその後姿を見ていません。単純に自分達が眠った時間に地上へ戻ったのかもしれませんが」


「冒険者までもか・・・・・・ミレアナ、その先に何があると思う?」


「・・・・・・・・・・・・冒険者がその場所に向かって帰ってこなくなったのは偶然だと思います。その場所に何があるのかも完全に分らなかった。でも、モンスターは人間の中で獣人族を除き、嗅覚という点で多くのモンスターが人間より勝っていると思います。なのでその場所には何か自然に惹かれてしまう程の花があるの。もしくはそれ程の香りを放つ果物があるかだと私は思います」


匂いに惹かれるというなら食材が一番と一瞬ミレアナは思ったが、そもそも既に調理されている物が自然界にある訳が無い。

なので必然的に選択肢が花と果物の二択となった。


「戻ってこれなくなる、つまり死んでしまうかもしれないと解っていてもついその場所に向かってしまう程美味い果物、だったら良いんだけどな」


この世界に来てから日本で生きていた頃より美味い食材を食べる事ができているソウスケにとって、そこまでの価値がある果物に俄然興味が湧いて来た。


(ミレアナの考えから花って場合もあるんだろうけど、それならそれで使い道がありそうだし)


ぜひその場所に行ってみたいと思いながら既に太陽が落ちかけているのを確認したソウスケ達は野営の準備に取り掛かる。



(モンスターが自然と惹かれてしまう何かがる。その場所には是非行ってみたい。けど俺達の目的は基本的にこのダンジョンの最下層のボスモンスターを倒す事なんだよな)


野営の準備を終え、夕食と入浴も終えたソウスケは毛布に包まってベットで寝ている。


(別にこの街でやる事をやり終わってから次の目標が無い訳では無いけど、焦る必要がある訳じゃない)


鍛冶のスキルを持つソウスケは是非とも鉱石を手に入れて武器を造ってみたいと思っている。

しかし宝箱の中から偶に手に入る鉱石なのでは量が圧倒的に少ないので、鉱石が手に入る鉱山へと行こうとソウスケは考えている。


(・・・・・・ふふ。こんなにも真剣にやってみたい事がるってのは良い事だな)


日本にいた時にはやりたい事があっても、それが今よりも熱意を持ってやりたい事では無かった。

それがこの世界では戦い一つですら心が熱くなる。


日本で大して意味も無い日常を送っていた頃には絶対に得られなかった感覚。


(この世界に来てからまだ三か月も経っていないんだ。焦らず楽しんでいこう・・・・・・でもやっぱり目標の順序は決めておいた方が良いよな)


約十秒、ソウスケはこれから先に最下層のボスモンスターを討伐するのか、それともモンスターがその場所に死の危険があるかもしれないと解りつつも向かってしまう何かがある場所へ向かうのか考える。


(・・・・・・やっぱり最下層のボスモンスターを倒すのが先決だな。何か秘密がある場所へ向かうのはエクストラクエストって感じに考えておこう)

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