二百九話ここでもか

「ふぅ・・・・・・朝、か。っと、そういえば昨日は頭にタオルを巻いたまま寝たんだったな」


髪型が変わる様にと昨夜、髪の毛を乾かした後に頭に巻いてそのままにしていたタオルを外し、自身の手で頭を軽く触る。


「良い感じだな。鏡でちょっと見てみるか」


ベットから降りてソウスケは鏡の前に立って自身の髪型を確かめる。


「・・・・・・・・・・・・ふっ、なんだろうな。今までずっとストレートだったから物凄い違和感があるな。まぁそれでも、これでちょっとは同業者から見下されることは無いか?」


ソウスケが自身の少し変化した容姿を確認しているとミレアナが目を覚ました。


「んぅ・・・・・・おはようございますソウスケ、さ、ん・・・・・・」


「おう、おはようミレアナ。・・・・・・どうしたんだそんな呆けた顔をして。やっぱり変かこの髪型は」


自分の髪の毛を触りながらソウスケは恥ずかしそうに笑うが、ミレアナは今のソウスケの髪型を一切変だとは思っていない。


「そ、そんな事無いですよ。と、とても似合っていると思います」


「そうか? それなら嬉しいんだけどな。取りあえずこれで少しぐらいは俺に絡んでくる同業者の数が減るだろう」


ソウスケに絡んでくる冒険者がゼロになるとはミレアナも思っていないが、それでも髪型一つでかなり印象が変わったソウスケを見る限り四分の一ぐらいは減るかもしれないと思う。


「はい、今のソウスケさんの外見ならば下らない事で絡んでくる冒険者も少なくなるかと」


「そう願うばかりだな。さて、朝飯を食ったらすぐにダンジョンへ向かおう」


パパッと食事を終えてダンジョンに向かい、到達階層を増やしてお目当てのモンスターを倒して素材を手に入れたい。そう思っていたソウスケだが物事はそう簡単には進まない。



「なぁなぁ、君たちもダンジョンに挑むんだろ。なら俺達一緒にパーティーを組んで探索しないか?」


朝食を食べているソウスケ達のテーブルに三人の冒険者が声をかけて来た。

男が二人に女が二人。服装から前衛後衛のバランスが取れているパーティーだと解る。


年齢は全員が十代後半。ソウスケが自分達と歳が近く、傍に居るエルフが自身達より数段強いと雰囲気から感じ取り、この二人と組めば今より深い階層に潜れるのではないかと思いソウスケとミレアナに声をかけた。


そんな思惑が合って声をかけられたソウスケは表情にこそ出していないが、内心では表情を歪めていた。


(・・・・・・まさか酒場でもダンジョンに一緒に潜らないかと誘いを受けるなんてな。別に今のところ大して名が売れている訳でもないんだが。でも、ミレアナからはこの人何となく強いなってオーラが出て来るからミレアナの強さ目当てで誘って来たのか?)


ソウスケの考えは全て合っている訳では無いが、大まかには合っていた。

勿論その探索一回限りでの誘いだが、ソウスケとしては是非とも遠慮したい。


(見た目ランクEからDってところか? 別に弱いとは思わないけど、特別強いとも思えないな。何か凄い奥の手を隠している様には見えないし。てか、まず俺達がこいつら一緒にダンジョンを探索するメリットはないんだよな)


即刻に誘いを断りたい。しかし自分が行ってものらりくらりと躱してミレアナと交渉を始めるかもしれない為、ソウスケはテーブルの下で四人には見えない位置でミレアナの足を突いた後に×を描く。


それだけでミレアナはソウスケがどうしたいのかを理解して四人に答えを返す。


「申し訳ありませんが私達は二人でダンジョン探索を進めているので、その誘いは断らさせていただきます」


「そ、そうなんですか。で、でも二人よりも自分達と組んで六人の方が探索のベースは速くなると思いますよ」


男の冒険者の言う事は間違ってはいない。だが、明らかにランクとは不相応な実力を持っている二人にとっては全く逆。

自分達と実力が近く、足の速さと持久力が有れば少し話は変わっているが目の前の四人が自分達の速さに付いてこれるとは到底思えない。


(自分達の常識を他人に当てはめるなと言いたいところですが、そんな事を言えば周囲で食事をしている冒険者達に要らない誤解を与えるかもしれない。それだけは避けたいところです)


余りにきっぱり断ったり、悪意は無くとも相手を見下す様な言葉を言えば乱闘騒ぎになるかもしれない。

仮にそういった事態になったとしてもミレアナは一向に負ける気はないが、多少なりとも目立つ事には変わりなかった。


ミレアナが誘いを断る言葉を選んでいると一人の冒険者がやってくる。


「おいお前ら、そこのエルフの姉ちゃんと坊主は二人で潜るって言ってんだ。あまり迷惑をかけるような誘いは良くねぇぞ」


身長は百八十後半、体格も腕はか細い女性の腰ほど太い。一目で虚仮威しでは無いと解る風貌の男が四人の冒険者に注意の言葉をかける。


「じ、ジーラスさん。ぼ、僕たちは決して彼女たちに迷惑をかけるつもりは・・・・・・それにやはり二人のダンジョン探索は危険ですし」


「迷惑かどうかを決めるのはエルフの姉ちゃんと坊主だ。それにな、誰かを心配するならもう少し強くなってからにしろ。言っとくが、こっちのエルフの姉ちゃんにとってはお前らは足手まといにしかならない」


きっぱりとお前たちは足手まといだと言われた四人の表情は歪む。

足手まといだと言って来た男は自分達より先輩であり、ランクも上。しかし冒険者になってまだ数年とはいえそれでも冒険者としてプライドがある。


「た、確かにそこのエルフの方は僕達より腕は上かもしれません。ですがジーラスさんが言う程足手まといにはならない筈です」


パーティーのリーダーである男に同意するように他の三人も頷く。

しかしジーラスは首を横に振って四人の考えを否定する。


「いいや。俺が言う程足手まといになる筈だ。エルフの姉ちゃんと坊主は二人で潜る事を前提としてダンジョンに挑んでいる、おそらく移動速度を重視しているんだろう。そこでまずお前たちがいる時点で荷物になる」


ジーラスが自分の考えを当てている事にソウスケは多少驚くが、その通りなので顔には出さないが心の中でその通りだと呟く。


「そんで戦闘に関してもエルフの姉ちゃんがいればお前たちが戦闘に加わるより速く片が付く。モンスターパーティーにでも襲われたら話は別かもしれないが、仮にそうなったとしたら余計に足手まといだ」


お前たちがこの二人と組めば、お前たちに利益はあるかもしれないがこの二人には一切の利益は無い。この二人にとっては迷惑でしかないから一緒に探索するのは諦めろ。

そういった意味を含まれた言葉を受けたリーダーの男は歯ぎしりをして握りこぶしに力を入れる。


そこで口には出さない様にしていた言葉をつい出してしまう。


「な、なら・・・・・・そっちの少年はエルフの女性の足手まといにはならないと言うんですか」


幾ら髪を上げたとはいえ、幼さが完全に消える訳では無い。

四人から見てソウスケは自分達より年下でありランクも低く、実力も自分達より下で冒険者歴もソウスケよりは長いと思っていた。

殆どの事はあっているが一つだけ間違っていた。


ソウスケは目の前の四人よりも冒険者歴は短くランクも下。

だが、実力では全くの逆だった。


「そうだな・・・・・・正確には解らねぇけど、取りあえずお前らと違ってエルフの姉ちゃんの足手まといやお荷物にはならねぇだろうな。だから一緒にパーティーを組んでるんだろ」


ジーラスの言葉に周囲の笑い声が大きくなり、四人の表情はだんだんと赤くなる。


「分かりました!!!! 失礼させて貰います、行くよ!!!!」


これ以上この場にいて笑い者になりたくないと思った男は声を張り上げて仲間に声をかけ、宿から出て行く。

周囲の冒険者や商人達などは恥ずかしさに耐えきれず逃げ出した四人を見て、少し笑い過ぎてしまったかと思って苦笑いになる。


出て行った四人の冒険者に同情しなくはないが、それでも面倒な相手が消えてくれてソウスケとしては嬉しかった。

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