百七十七話嘘は言っていない

「取りあえず確認しておきたい事は全て確認したが、他に何か質問はあるか」


誰も手を上げず、声を出さないのを確認したブライドは会議を終わらせる。


会議が終わるとバックスは何かから逃げるように早足で部屋から出て行く。

仲間たちも慌てながらバックスの後を追う。


ソウスケは自分がやった事を後悔していないが、あそこまでビビるのか不思議だった。


(まぁ、あと一歩踏み出していたら死んでいた状況ではあったけど、反省しているならあんな早足で部屋から出て行かず、俺に一言謝罪があっても可笑しくは無いよな?)


プライドが高そうなのは見た目からして分かっていたが、自業自得であり、次に絡んで来たらオカマにするとまで警告されたのにも関わらず謝罪の一つもない。


部屋から出て行く時に一瞬ソウスケの方を振り向きガンを飛ばす。

傲慢な態度はそう簡単には変わっていない。ただ、左手が震えていたのをソウスケは見逃していなかった。


(・・・・・・体は自分が悪かったって認めてるんだから、心も素直に自分が悪かったって認めればいいのに)


溜息を一つ吐きながら、依頼中は夜と戦闘中の背後には気を付けよう思い、ソウスケはミレアナに声を掛けて部屋を出ようとする。


「なぁソウスケ君。試験の時、全力では無かったよね」


不意に後ろから声を掛けられる。

質問の内容に、ソウスケはブライドに対して嘘をついても無意味だと判断する。


(あのバックスって奴と違ってブライドさんは見た目がどうであれ、しっかりと相手の実力を認める人だ。俺がここで違います、本気でしたと言っても絶対に信じない)


ただ、自分の実力を全て伝えてしまうような言葉を使わずに返す。


「はい。切り札はあまり他の冒険者がいる場所で使わない方が良いと思ったので」


間違った事は言っていない。ソウスケには他人にはあまり見られたくない切り札が複数ある。


「そうか。ミレアナさんも同じかな?」


「はい。ソウスケさんと同様に切り札はそう簡単に見せない方が良いと判断しました」


日頃から目立つような事をなるべくせず、言わない様にとソウスケから言われているため、ミレアナはいきなりの質問に戸惑う事無く答える事が出来た。


「・・・・・・二人は、あれかな。あまり目立ちたくないと思っている感じかな」


「基本的にはそうですね。目立つと色々と面倒な事に巻き込まれそうな気がするんで」


「あ~~~、確かにそうかもしれないな。下手に実力があって後ろ盾がないとソウスケが考えている状況になった時、上手く解決できる可能性は低いだろうからな。ソウスケ達は今のところ生活には困っていないんだろ」


ラックは自身が体験した話ではないが、他の街の酒場で飲んでいた時にソウスケの言う面倒な話を聞いた事があるため、ソウスケの考えが理解出来なくもなかった。


「今のところは全然大丈夫ですね」


臨時収入として白金貨五枚を手に入れたソウスケの懐は、ブライド達が思っている数十倍余裕がある。

少し金遣いが荒いところはあるが、基本的に余裕を持って生活出来るほどのお金はしっかり分けているので特に金銭面での問題は無い。


「ならそのモチベーションでやっていくのも十分にありだな。お前は見たところ状況が状況でなければあまり無茶はし無さそうだしな」


ラックか慎重に行動を取りそうと思われたソウスケは過去の自分を振り返る。


(・・・・・・まぁ、少し無理したかなって場面はあったけど、一応勝算があっての行動だから無茶ではないか)


ソウスケは小さく頷きながらラックの言葉を肯定する。

それを横で見ていたミレアナはえっ、という少し驚いた表情をしていたがソウスケはそれを無視した。

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