百六十話動き方ひとつで

コボルトが放った咆哮には同族の身体能力を向上させる効果を持つ。


先日ソウスケと戦ったコボルトジェネラルと比べて動きが速く鋭い。


「流石はキング・・・・・・と言ったところですね。厄介なスキルをお持ちで」


未だ戦闘には参加せず、自信をターゲットにしているソウスケの動きから目を離さないようにしている。

そんなコボルトキングを睨み付けるがミレアナの表情に苛立ちこそあれど、焦りは無い。


「風よ、速さを求め敵に捕捉される事無い疾風となり・・・・・・」


矢を、風の刃を放ちながらミレアナは並行詠唱を開始する。


コボルトキングの咆哮のにより身体能力が上昇した上位種達から放たれる攻撃を躱しながら、自身も攻撃をしながら行う。


敵をの姿を追う目を、魔力の矢を引く右手を、風の刃を繰り出す両足を、常に気配感知を使い少しずつだがすり減る精神をミレアナは止めない。


そんな中で並行詠唱を行う事で、ミレアナの並行詠唱の錬度は一秒単位で上がっていく。


「我に宿りて全てを置き去る風脚を・・・・・・アクセルウィンド」


並行詠唱を終えたミレアナの両足は緑色に輝きだした。


弓をしまってミスリルの短剣を取り出す。


「さぁ、そっちの土俵に付き合ってあげますよ」


接近戦の準備が整ったミレアナはステップを踏みながらコボルトの上位種達を挑発する。


興奮が冷めない上位種達は今一度自身を鼓舞するように雄たけびを上げ、己の体を強化し、闘志は万全の状態でミレアナの命を狙う。


ただ、闘志が万全であっても体は万全でない物が殆ど。一体を除いて殆どが体のどこかに傷を負っている。

そしてそんな上位種達が風の付与魔法を使ったミレアナの速さに付いてこれるかのかどうか・・・・・・完全に否定は出来ないが、目こそ追い付いているものの体が反応しきれていない。


ミスリルの短剣がコボルトの上位種を斬り裂く。喉を、心臓を、脇腹を、腕を。


コボルトキングの咆哮により強化され、身体強化によって更に強化された上位種達の体を特に苦労する事無く、ただフットワークで良い位置取りをして相手の急所を裂いて貫く。


「・・・・・・意識してみるとかなり変わりますね」


ミレアナは片足立ちをしながらソウスケから教えられた動き方に感心していた。


戦いの最中に完全に両足立ちでいる事は少ない。無理に両足を揃えて動こうとすればその隙にやられるかもしれない。だから常に片足で動く事に慣れて無駄な時間を省く。


確かに理に適っている。既に無意識でやっていたところもあるが、改めて意識して行ってみると戦いやすさが違う。


この知識はソウスケが格闘漫画から得た物でであり、元の世界では漫画の描写程上手い事はいかないだろうと本人は思っていたが、片足でも十分に動けるこの世界では十分に役立つ事が分かった。


ミレアナの短剣と速度が上昇した蹴りにより上位種達は次々に戦闘不能になっていく。


速度が上昇したからと言って威力が変わる事は無い? それが実際にあり得る。威力は重さ×速さ・・・・・・重さに関しては確かにミレアナは足りない所があるかもしれない。

ただ、力に関しては見た目だけで測られないところがある。そしてモンスターの中でも比較的に反射神経が速い部類に入るコボルトの上位種の体が殆ど反応出来ていない。


そこまでの速さがあれば威力も普段と比べて大きく変わる。

硬さ・・・・・・耐久力が二重に上がった上位種の拳や足も、背骨や胸骨をあっさりと蹴り砕く。上位種の中には砕かれた骨が肺や心臓に突き刺さって息絶えた者も多い。


一つの付与魔法により両者にはそれほどまでの実力が開いた。

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