百三十四話プライベートでも

「トーラス様、ソウスケ様とミレアナ様をお連れいたしました」


「通してくれ」


奥からトーラスの声が聞こえてくるのを確認した執事は扉をゆっくりと開いた。

中へ案内された二人はゆっくりと歩を進めて用意された席に座った。


ミレアナは自分の立場を考え、後ろで立っていようとしたが執事が座っても大丈夫だと伝えたのでソウスケの隣に座っていた。


そして二人を呼びだしたトーラスは書類整理が一段落し、一つ長い溜息を吐いてから席を立ちソウスケとテーブルを挟んだ席に座った。


「ここ最近良い意味で忙しくてね、またしてしまって済まなかったね。セッツ、紅茶を三つ淹れて貰ってもいいか」


「かしこまりました」


執事・・・・・・セッツはトーラスとソウスケ、そしてミレアナの三人分の紅茶を入れ始めた。


ソウスケはトーラスの顔と雰囲気を見て誰かに似ているなと感じた。


(マーカスさんではないんだよな・・・・・・ああ、そうだ。セルガ―さんに似ているんだ。もっとも、雰囲気だけだったけどな。外見はトーラスさんの方が紳士的に見えるからな。セルガ―さんは・・・・・・なんて言うか、野望感? みたいな物が顔に出ているタイプなんだよな)


結局はそこまで似ていないが、二人共経営者という部分は共通しているため気を抜かずにソウスケはトーラスとの商談を始めた。


「まずはソウスケ君、君が造ったリバーシとチェスという娯楽、とても楽しませて貰った。娯楽界の革命とも言える物だ」


「そ、そうですか・・・・・・えっと、そう言って貰えるとこちらも作った甲斐があるというものです。そこまで言って貰えるとは予想外でしたが」


セッツと同じような事を言うトーラスに対してソウスケは若干引き気味だった。

だが、この世界に娯楽と言える物はカジノや剣闘試合等しかない為、ソウスケが造ったリバーシとチェスはトーラスが言った通り、この世界にとっては革命的な娯楽であった。


「正直に言うと商談によって大きな利益を得た時よりも心が躍った。そうだな・・・・・・何と言えば良いか、童心に帰ったというべきかもしれないな。私は父から継いだこの商会の事をどう維持、発展させるべきかを寝る時以下は殆ど考えている・・・・・・は流石に言い過ぎかもしれないが、仕事の時間外の時も店の事を考えている時が多い」


トーラスの話を聞いてソウスケは自分もどこかで似た様な体験をした覚えがあった。


(何時だったけ・・・・・・そうだ、テスト期間の心境と似ているんだ。勉強をしていない時間でもテストにはどんな問題が出てくるのか、いつまでにどの提出物を終わらせなければいけないのか、ノートは全て書いていたか・・・・・・出来れば思い出したくない出来事だったな)


成績が悪い訳では無かったが、だからといって学校の勉強が好きだった訳では無かったソウスケにとって嫌な記憶の一部だった。


「だがリバーシとチェスをやっている時は仕事の事を完全に忘れていた。それは公的には良くない事だろうが、精神的な部分を考えればとても素晴らしい物だ。仕事の事ばかりを考え過ぎ、働き過ぎて倒れる。又は亡くなってしまう商人は少なくないからね」


「そうなんですか・・・・・・そう考えるとリラックス出来ると言うか、一旦頭から忘れる事が出来る物は重要かもしれませんね」


ソウスケはセッツ入れた紅茶を鑑定で一応調べてからゆっくりと飲んだ。


(過労死、か・・・・・・こっちの世界だとどこの商会が、職業がと言うよりは上に行けば行くほど忙しさが増すんだろうな。勿論上に行っても屑みたいな奴はいるんだろうけど)


ソウスケの思った事は間違っておらず、自分が付いている役職の仕事をこなさずに甘い汁を吸っている豚は少なからずいる。


「そう言う訳だ。これは私みたいな責任が大きい役職についている者だけでなく、一般市民にも言える事だ。心をリラックスする事が出来れば、仕事の効率も上がると思っている。と言う訳で早速値段の話に移ってもいいかな」


何がと言う訳なのかソウスケは理解出来なかったがコクリと頷いて値段決めに話の内容を変えた。


「一般市民にも買って貰える値段、それがソウスケ君の考えだったね。そこは私も賛成だ。制作時間を考えてリバーシが銀貨一枚、チェスが銀貨十枚にしようと思うんだが・・・・・・どうかな?」


「それで大丈夫だと思います。チェスが少し高い気がしますけど・・・・・・そこはトーラスさんの言う通り制作時間を考えれば妥当ですから」


トーラスの提案した値段にソウスケは全く不満は無かった。

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