九十一話目立たないためには

ベットから体を起こしたソウスケは、隣で同じベットで寝ているミレアナとチラッと見た。


「・・・・・・くそ、中々寝付けなかったな」


二人が寝る前に、ミレアナが流石に主でありソウスケと一緒に寝るのは良くないと思い、自分は床で寝ると言い出した。

そんなミレアナの対応に、ソウスケは頭が何故そういった考えになるんだと思ったが、直ぐに日本で生きていた自分とこの世界で生きているミレアナの価値観の違いだと分かり、そんな事はしなくていいと伝えた。


ソウスケは女の子に床で寝かすなんて事を出来ないという思いと、ミレアナみたいな美人といて別々の場所で寝るってもはや罰ゲームだろという思いからミレアナは必至で同じベットで寝るように伝えた。


結果的に一つのベットに二人で寝る事になったが、ソウスケは横から良い匂いがするミレアナのおかげで中々寝付く事が出来なかった。

とはいえ、娯楽がないため夜更かしせずに早く寝たので睡眠不足とはならなかった。


そしてベットから下りたソウスケはいつも通り窓を開けて太陽に位置を確認した。


「・・・・・・真上には来ていないな。多分九時半か十時ぐらいか」


昇格の試験が始まる時間前に起きれた事にホッとし、ソウスケは寝間着から普段着に着替え始めた。

そして着替え終わったタイミングでミレアナも目を覚ました。


「んん・・・・・・おはようございます、ソウスケさん」


「おう、おはよう。まだ昇格の試験まで時間あるからとりあえず朝飯は食べるぞ」


ソウスケは昨日まで昼飯も食べようと思っていたが、万が一に試験中に吐くような事があれば、色々な意味で洒落にならないと思い昼食は食べない事にした。


「分かりました。なら早く着替えますね」


ミレアナは寝間着から冒険者用の服に着替えようとし、その場で服を脱ぎ始めた。


「ッ!!」


ミレアナが服に手をかけた時、ソウスケは反射的に後ろを向いた。勿論頬は赤くなっている。


「き、着替え終わったら声を掛けてくれ」


「? はい、分かりました」


ソウスケが何故後ろを向いているのか理解できていないミレアナは、首を傾げながらも着替えを続けた。

昨夜の説明の時にソウスケがこの世界の人間と自分の感覚は違うと言う事をミレアナは伝えられたが、やはり完全には理解出来ていなかった。


着替え終わり食堂で朝食を食べ終えた後、宿を出た二人は昨日砥石を買った武器屋に向かっていた。


「試験前に武器屋に何を買いに行くんですかソウスケさん?」


「別に大したもんは買わないよ。初心者が使う様なロングソードを買うだけだ」


ソウスケの武器屋へ行く目的を聞いてミレアナの頭には?マークが浮かんだ。


「ソウスケさんには既にその双剣があるのに、何故わざわざソウスケさんにとったら使い捨ての様な武器を買うんですか?」


ミレアナはソウスケの気持ちを考慮して飛竜の双剣とは言わなかった。


そしてミレアナの言う事は尤もな事だった。この世界に来た時のソウスケならばまだしも、今のソウスケにとって初心者向けのロングソードなど、精々投擲用の武器にしかならなかった。


だが、ソウスケにはソウスケなりのちゃんとした考えがあった。


「ミレアナ、お前は今俺に気を遣ってこいつの名前は言わなかっただろ」


コツンコツンとソウスケは飛竜の双剣の柄をノックした。

ソウスケの言葉にミレアナはまさにその通りなので元気よく頷いた。


「はい! その方が良いかと思ったので」


「その判断は正解だ。それでちょっと話が変わるが試験で使う武器は木製の武器なのか、自分がいつも使っている武器なのかは教えって貰っていない。前者なら良いが、後者だと俺の気持ちに反する事が起こるかもしれない」


ミレアナは後者の状況になった時にソウスケが身に付けている双剣で戦えば、どうなるかを考えた。

飛竜の双剣の武器としてのランクに性能、そして摸擬戦を行う相手の冒険者のランク。

様々な事を考えてようやくミレアナはソウスケが恐れている事が分かった。


「もしその双剣で戦った場合、試験官の武器が壊れてしまう可能性があるからですか?」


「そう言う事だ。考えてみろ、低ランクの冒険者の持っている武器が中堅ランクの冒険者の武器を壊したりしたら、色々面倒になる可能性大だろ」


他にも少し理由があるが、ミレアナが答えた物がソウスケが恐れている展開だった。


「確かにそうなる可能性は十分にありますね。というか、そうなってしまったらそれ以降の結果によって余計に面倒ごとになるかもしれませんね」


「はは、良く分かってるな。そう言う訳だからとりあえず適当なロングソードを買ってからギルドに向かうぞ」


二人は試験の時間までに遅れない様、そこからは速足で行動した。


それからロングソードを買い終えた二人はギルドの中に入り、受付にいたセーレの所へ向かった。

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