八十六話無駄なく

ミレアナが放ったウィンドアローは途中で軌道を変え、斜め右方向にずれた。


(魔力操作もお手の物か。いや、もしかして度胸があるからとかじゃなくて、明日に試験があるから今自分が何を出来るのか確認しておきたいのかもしれないな。・・・・・・まぁ、試験官の力量によってはそんなに気張らなくても魔法とか使わずに素の力で勝てると思うんだけどな)


とりあえずミレアナが怪我をしなければいいなとソウスケが思っていると、斜め右方向に消えた風の矢がモンスターに当たり、奥からモンスターの悲鳴が聞こえて来た。


(この声は・・・・・・多分オークだな。ダンジョンで何回も聞いた声だからな、何となく覚えていたな)


ソウスケはミレアナの顔をチラッと見た。

すると、ミレアナの眉間には皺が寄っており、直ぐに不機嫌と分かる表情をしていた。


(あ~~~~、やっぱりエルフからしたら・・・・・・いや、女の人からすればオーク・・・・・・それとゴブリンは絶対嫌悪の対象なんだろうな)


ソウスケはまだオークやゴブリンに襲われた女性を見た事は無いが、捕まり攻撃手段を奪われてしまったらどうなるかは容易に想像できた。


倒す手順を考え終えたミレアナは風の魔力を応用し、スピードを更に上げた。


「わぉ・・・・・・ボーーっとしていたら完全に置いてかれる、な!!」


ミレアナを見失いようにソウスケはスピードを上げてミレアナを追いかけた。


二人の視界にオークが見えると、そこには三体のオークがいた。

三体の内、二体の腹や右腕に膝の三か所に風の矢が刺さっており、残りの無傷の一体が風の矢を放ってきた敵を探していた。


そして自分達の方に向かって来る音に気が付き、音がする方向に振り向いたが敵は後三メートルもしない距離まで自分達に迫っていた。


無傷のオークは慌てて仲間を庇うように前に出たが、その行動は無駄に終わった。


「まずは、一体」


ミスリルの短剣に魔力を纏わせ刃先を伸ばし、射程距離を伸ばしたミレアナは直前で足に力を込め、一気に無傷のオークの首横を通り抜けた。


ミレアナの速さに目が追いつかず、完全にミレアナを見失っていた。

その直後にオークの意識はブラックアウトし、首が頭から零れ落ちた。


そして二体のオークの後ろに回ったミレアナは、直ぐにミスリルの短剣に風に魔力を纏わせた。


「あと二体」


再び足に力を込めて走り出し、今度はミスリルの短剣の射程内に入る前にオークに攻撃を仕掛けた。


「疾風斬」


ミレアナがミスリルの短剣で空を斬ると、ミスリルの短剣から風の魔力の斬撃がオークに向かって放たれた。

放たれた風の斬撃はオークが少したりとも反応する時間を与えず、右肩から心臓までをズバッと斬り裂いた。


心臓を斜めに斬り裂かれたオークは微かな悲鳴を上げるとその場に崩れ落ちた。


「これで、最後です」


最後のオークはミレアナの場所を察知し、ミレアナと対峙していたが最初に喰らったウィンドアローの影響で右腕が使い物にならなくなっていた。


オークは何とか左腕を使ってミレアナと距離をとろうと考えていたが、気づいた時には既に自身の目の前にミレアナがいた。


風の魔力を左手にため込んだミレアナはオークの顔の目の前で、ため込んだ風の魔力を前方に解き放った。


解き放たれた風の魔力はオークの顔を容赦なく吹き飛ばし、胴体と別れた頭はこま切れ状態になっていた。


「・・・・・・ふぅーーーー」


三体のオークを無事無傷で倒し終えたミレアナは一息吐き、顔の表情から嫌悪感が消えていた。


そして直ぐ近くでミレアナとオーク三体との戦いを見ていたソウスケはミレアナに拍手を送った。


「いや~~~~、凄い鮮やかだったな。時間は十秒程しかかかっていないんじゃないか」


ミレアナの戦いぶりを見ていたソウスケは本気で感心していた。

恐らくミレアナが真正面から倒そうと思えば倒せていた筈。ミレアナがモンスターの正体がオークだと分かった瞬間、嫌悪に満ちた表情になっているを見たソウスケは、正直真正面から倒すだろうと予想していた・・・・・・残酷さも加えて。


だが、ミレアナは嫌悪感を露わにしながらも無駄の行動はせず、傷を負わない様に手を抜かずその場でその場で最善の行動を取り、オークの体を殆ど傷つけずに倒し終えた。


(それに・・・・・・最後の風の魔力を圧縮させて放った技は魔法じゃない筈だ。ミレアナはまだ無詠唱にスキルを持っていない。にも拘らず最後の攻撃に詠唱を唱えていなかった。攻撃方法自体は難しい物じゃないと思うけど、その発想には中々たどり着かないだろうな)


やっぱり天才肌なのかもなと思い、ソウスケはミレアナにもう一度拍手を送った。

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