朝顔が伸びゆく先

有里 ソルト

序章

――お父、朝顔はどこまで大きくなるの?


そう聞かれたのは、いつのことだったか。

どこまでも、と大げさに言ったらあの子は飛んで喜んだ。


――そうなんだぁ!じゃあお空まで朝顔が大きくなったら、お母にも会えるね!朝顔の蔦を登って、会いに行くの!


そう言って、庭に種を植え始めたんだ。

天国のお母に会うため、そして私の病を治すために。


――お花にはビョーキを癒す力があるんだって聞いた!だから、朝顔が咲いたらお母にも会えるしお父も元気になる!こういうの、イッセキニチョウって言うんでしょ?


朝顔が咲いても病気は治らない――言いかけた言葉を、飲み込む。


そう、まだ知らなくていいんだ。

お母に会えないことも、私がそう遠くない未来に死ぬことも。


まだ何も、知らなくていい――


何も知らないあの子は、無邪気に笑って小指を出した。



『約束。あたし、お庭に朝顔をいっぱい咲かせる!だからビョーキ治して、お母に会いに行こうね。きっとだよ』



頷いて、私も小指を差し出す。

きっと叶うことはないであろう約束。


でも、それでもよかった。

あの子が今、笑っていてくれる――たったそれだけでよかったんだ。



……これは夢。

束の間の微睡みが見せる、過去の甘いささやかな記憶。


そう、これは夢なんだ。



約束が叶う日なんてやって来ない。


だって、あの子の手で朝顔が咲く日すら、永遠にやって来ないのだから――

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