ガン見してたのがバレた!?

 ほどなくしてハルカがシャワーのハンドルに手をかけた。そう、シャワーを浴び終えたのだ。という事は、この後ハルカはハンドルを捻って水を止め、振り返ってブースを出ることは間違い無い。これはマズい、このままではトシヤがガン見していたのがハルカにバレてしまう。だがしかしトシヤはそんなことすらも頭から完全に飛んでしまっている様で、ぼーっと見蕩れたままハルカから視線を外さずにいた。


 そしてその瞬間はやってきた。ハルカがシャワーを止め、振り返ったのだ。だが、ハルカを凝視していたトシヤの目線とハルカの目線がクロスすることは無かった。振り返ったハルカの目線はトシヤの顔に向いていた。しかしトシヤの目線はその下……ハルカの腰のあたりに向けられていたのだ。それにしてもトシヤ……ハルカは胸が寂しいから腰ばかり見ていたのか? それとも単に腰フェチなのか? それはさておきハルカが完全に振り返ったことで我に返ったトシヤは慌てて顔を背け、目線をハルカの身体から逸らしたがもう遅い。と言うか、寧ろトシヤが顔を背けたことでハルカはピンときたらしく、いたずらっぽく笑ってトシヤに言った。


「トシヤ君、見てたんでしょ? 私がシャワー浴びてるところ」


 ハルカに尋ねられ、トシヤはギクっとした。もちろん答えは『YES』だ。しかし正直にそれを肯定するのは抵抗がある……と言うか恥ずかしい。


 さて、どうする? 悩むトシヤだが、ゆっくり考えている時間は無い。そもそも考えたところでトシヤに上手い答えが導き出せる筈が無い。となれば下手に小細工をするのでは無く、恥ずかしい気持ちを押し殺して素直に認めて頭を下げるのが得策だ。

 そう判断したトシヤは背けていた顔を真っ直ぐハルカに向け、おずおずと口を開いた。


「うん……ごめん……」


 面目なさそうに言うトシヤの顔はハルカに向けられてはいるが、さすがに直視は出来ない様で目は伏せられている。そんなトシヤを見てハルカは得意げに言った。


「まあ、仕方無いか、私みたいな可愛い彼女の水着姿なんだから見たいのは当然よね」


 得意気ながらも冗談めかした口調なのは、嬉しくもあり恥ずかしくもありと言った乙女心の現れだろう。まあ、何にしても怒っているわけでは無さそうだ。安堵の溜息を小さく吐いたトシヤにハルカは笑顔で言った。


「それよりトシヤ君も早くシャワー浴びてきなさいよ、遊ぶ時間無くなっちゃうわよ」


「おっと、そうだな」


 ハルカに言われ、トシヤはそそくさとシャワーブースに入った。

シャワーブースに入るという事はハルカに背を向けるという事だ。ハルカはトシヤが背を向けた途端、大きな溜息を吐いたかと思うと顔を赤くして呟いた。


「はぁ……トシヤ君、私のこと見てたんだ……」


 やっぱりハルカはトシヤに見られていたのが嬉しいながらも恥ずかしかったようだ。それをトシヤに悟られないように頑張って冗談っぽく言っていたのだが、トシヤが背中を向けた途端に気が抜けてしまったのだろう。まったく乙女心というのは複雑だ。まあ、そこがまた可愛いのだけれども。


 そんなこんなでシャワーを済ませたトシヤ達。一刻も早くプールに飛び込みたいところだが、残念ながら目の前にあるのは小さな子供を連れた家族向けのファミリープールだ。いくら早く水に入りたいと言ってもさすがにコレに入るわけにはいかない。トシヤ達は楽しそうに水遊びに興じる子供達を尻目に一般の大人向けのプールを目指して移動を始めた。


 熱気と湿気でムンムンとしたプールサイド独特の空気の中を歩くトシヤ達。例年ならトシヤの横を歩いているのは男の友達だ。だが今年は……今日は違う。トシヤの隣に居るのはムサい男の友達なんかじゃ無く可愛い女の子、それも単なる友達では無い。いい感じになっていて、あとは告白するばかりのハルカなのだ。気温と共にテンションはガンガン上がる。


 それはマサオも同じこと。隣を歩いているのは冴えない野郎では無く、誰もが認める美少女のルナなのだからそれはもう気分はパラダイス、マサオの心の中では『しらパー』のプールが一流リゾートホテルのプールすら凌駕する楽園へと昇華していた。



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