第26話 本当はわかってる。でも……
ハルカはそう言ったものの、本当は解っていた。峠でいきなり追い抜いたかと思うとその数分後には完全にヘバってしまい、情けない姿を晒していたトシヤと麓のコンビニで再会し、その時に見せた真っ直ぐな目と屈託の無い笑顔。どちらもハルカがクラスの男子からは見る事が出来なかったものだ。多分、そこに惹かれたのだと。
「まあ、恋に理由なんて無いからね、ハルカが良かったらそれで良いんじゃない?」
あっさりした口調で言うカオリ。話を振っておいてこの言葉は無いんじゃないの……ハルカは憮然とした顔で溜息を吐いた。
「とにかく、もう変な事言わないでよね」
釘を刺す様に言うハルカにカオリは顔をぐっと近付けた。
「な、何よ……」
予想外のカオリの行動にたじろぐハルカにカオリは低い声でプレッシャーをかける様に言った。
「さっきのトシヤ君に対する態度はどうかな? 照れ臭い気持ちは解るけど、あんなだといつまでたっても状況は変わらないわよ。だから私が気を利かせて言ってあげたのよ」
カオリはハルカとトシヤのキューピッドにでもなろうと言うのだろうか?
「面白がってるだけじゃ無くて?」
おずおずとハルカが尋ねると、カオリは胸を張って答えた。
「もちろんじゃない! ハルカが初めて男の子に興味を持ったのよ、応援せずにいられる訳が無いじゃない」
きっぱりと言い切ったカオリにハルカは一抹の不安を感じ、気になる事を尋ねた。
「カオリとは中学以来の付き合いだけど、カオリに彼氏が出来た事って有ったっけ?」
「無いわよ」
ハルカの質問にカオリから呆れた答えと言うか、ハルカが予想していた通りの答えが返ってきた。どうやらカオリも恋愛経験は無いらしい。恋愛経験の無いカオリにキューピッドなど務まるとは思えない。だが、ハルカの性格からすると、カオリの言う通りいつまでたってもトシヤとハルカの関係は進展などしないだろう。
「自分から言うのが恥ずかしかったら、トシヤ君に言わせる様に仕向けたら良いのよ」
黙りこんでしまったハルカにカオリは身も蓋も無い事をあっさりと言ってのけた。
「そんな簡単に言わないでよ」
ハルカが口を尖らせて呟いた。それはそうだ、そんな事が出来れば苦労は無い。だがカオリはどういう訳か、自信満々に断言した。
「大丈夫よ。ハルカだったら『ちょっと可愛いところ』を見せればトシヤ君も参っちゃうわよ」
『女は生まれながらの女優だ』と言う名言が有るが、ボーイッシュが売りのハルカに女の子らしい可愛い仕草など出来るのだろうか? もちろんそれを一番思い悩んでいるのはハルカ当人だ。
「私、演技なんか出来無いわよ」
ハルカが正直に言うとカオリは呆れた顔で苦笑した。
「何言ってるのよ。思いっきり演技してるじゃない、『トシヤ君になんか全く興味なんて無いわ』って。恐ろしい程に下手くそな演技だけどね」
「アレは演技なんかじゃ無いわよ」
ハルカが言い張ると、カオリはやれやれといった顔で言い返した。
「まあ、そうね。アレは演技って言うより自分の気持ちを隠す為の三文芝居よね。バレバレだけど」
見事に論破され、ぐうの音も出ないハルカにカオリは優しく言った。
「演技が出来無いって言うのなら、その下手な芝居をやめれば良いのよ。素直な自分をトシヤ君に見てもらったら? ハルカは本当は可愛いんだからきっと大丈夫よ」
カオリの言葉通り、何度も言うがハルカは見た目はボーイッシュ系の美少女だ。ただ、ちょっと中身がボーイッシュを通り越して腕白小僧なのが残念なだけなのだ。
「そうかな……でも……」
ハルカは照れながら嬉しそうに微笑むが、何か言いかけて言葉を濁してしまった。ハルカの頭には大きな気がかりが根を張り、それがハルカの行動を阻んでいるのだった。
『おおきな気がかり』とは、ルナの存在だ。ハルカとは違って女性らしい華やかさを備え、しかもそれは嫌味の無い品格に溢れたもので、ハルカが小さい頃から大好きで、憧れのお姉さんルナ。
「ルナ先輩と比べられたら勝ち目なんて無いもの……」
ハルカは寂しそうに目を伏せながら呟いた時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
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