第24話 ハルカの友達カオリの意味深な発言

 そして昼休みの事。


「トシヤ、学食行こうぜ」


「おう、急ぐぞ!」


 マサオの誘いにトシヤは急いで席を立った。


「早くしねーと座れ無ぇぞ」


 一時間にも満たない昼休みに生徒が一斉に集まる学食は戦場だ。出遅れたら定食どころか饂飩にすらありつけない。トシヤとマサオは急いで学食に向かったが、既に席は多方埋まり、配膳カウンターには長蛇の列が出来ていた。


「ムカつく先生だぜ。昼休み前の授業だってのにダラダラ話しやがって」


「まったくだ。空気読んで早く終われってんだよな」


 ブツブツ文句を言いながら列の最後尾に着いたトシヤとマサオが無事にAランチを手に入れたのはそれから十数分後の事だった。だが、問題はこれで終わりでは無い。次は座る場所を探さなければならない。食べ物の列に並ぶ前に席を確保すれば良いのではないかと言う声も聞こえてきそうだが、ここではそれは禁じ手、『食べる物を手にした者のみが空いている席に着く』というのが代々受け継がれてきたここの掟なのだ。


 A定食を載せたトレイを手に、空席を探してウロウロするトシヤとマサオに一筋の光明が差した。席を取る際の掟と共に存在する『食べ終わった者は速やかに席を立つ』というマナーに則り、食べ終わった二人の女子が空席を探すトシヤとマサオに気付き、席を立ったのだ。


「よっしゃ、ラッキー」


 言うが早いかマサオがその席に座った途端、正面に座っていた女子と目が合った。


「あっ、ハルカちゃん。奇遇だね、こんな所で」


 しれっと言うマサオの隣にトシヤが座るとハルカは一瞬トシヤの方を見たが、すぐに目を伏せてしまった。


「あれっ、ハルカの友達?」


「うん……ちょっとね」


 ハルカの隣に座って一緒に昼ご飯を食べていた女子がハルカに尋ねるが、ハルカは歯切れの悪い返事しか返さない。するとその女子はとんでもない発言をしでかした。


「もしかして、その子がトシヤ君?」


「ふえっ!」


「ええっ!?」


「うえっ!?」


 ハルカとマサオとトシヤの口から言葉にならない声がほぼ同時に飛び出した。だが、その女子は気にも留めずにペラペラと普段のハルカについて語りだした。


「最近、ハルカ楽しそうだもんね。新しい友達が出来て嬉し……」


「ちょ、ちょっとカオリ、いきなり何言い出すのよ!」


 どうやらその女子、ハルカの友人はカオリと言うらしい。ハルカは「変な事を言わないでよ」とばかりに睨みつけるが、カオリには全く効果が無かった。


「どうしたの? あっ、もしかして照れてるの? ハルカにも女の子らしいところが有って安心したわ」


「な、な、な、な……」


 カオリの言葉にハルカは顔を真っ赤にして悶絶寸前、もはやまともに言葉すら発する事が出来なくなってしまっている。しかしカオリはふざけている訳でも悪意を持っている訳でも無さそうだ。さっきまで笑っていた顔が真剣な目に変わった。


「ハルカって、結構男の子っぽいでしょ? だから心配だったのよね」


 カオリによるとハルカは男の子っぽい元気っ娘で、クラスの男子に人気が有ったりするのだが、それはあくまでクラスメイトとしての事。男子から『異性』とか『女の子』としては見てもらえ無い。だからと言ってそれを気に病む事も無く、クラスの誰もがハルカが色恋沙汰には縁遠い人間だと思っていたらしい。カオリはそんなハルカを女の子として心配していたのだが、さっきハルカが見せた反応は、まさに女の子の反応だった。それで安心したと言ったところだろう。


「だからトシヤ君、ハルカの事をよろしくね。自転車仲間としてだけじゃ無く、女の子としても見てあげてね」


「うがあああぁぁぁぁ!!」


 カオリのとんでもない言葉にハルカは遂に耐え切れなくなり、奇声を上げて立ち上がった。その声は学食中に響き渡り、周囲の注目を集めたが、幸か不幸かその中にハルカと同じクラスの男子が居た様で、その男子が発した


「なんだ、また遠山が騒いでるのか」という一言で周囲の者達は「良く有る事なのか」と興味を削がれたらしく、ハルカに突き刺さっていた奇異の視線はすぐに消え失せた。


「………………」


 ハルカは黙って座ると、黙々と箸を口に運び出した。その横でカオリは苦笑いしながらトシヤとマサオに「ごめんね、ハルカったら素直じゃ無くって」と謝ると、自分も箸を動かし始めた。突然の出来事に呆然としていたトシヤとマサオだったが、ぼーっとしている時間は無い。こうしている間にも刻一刻と過ぎていく、早く食べないと昼休みが終わってしまうのだ。トシヤがチラチラとハルカの様子を覗いながら急いでご飯を食べていると、黙々と食べ続けていたハルカの箸が止まった。


「ごちそうさまでした。カオリ、私先に行くわね」


 ハルカはカオリに言うと、トシヤとマサオには目もくれず席を立ってしまった。


「あっ、ハルカ、ちょっと待ってよ」


 カオリが引き止めようとしたが、ハルカは既に空になった食器を載せたトレイを手にスタスタと歩き出してしまっていた。


「ごめんね、ハルカったら素直じゃ無いから」


 カオリは遠ざかるハルカの背中を横目にトシヤに謝ると、自分も急いで食べ終えて席を立った。


「じゃあ、私もお先に。ハルカの事、よろしくね」


 意味深な言葉を残してカオリも行ってしまった。トシヤとマサオも急いでA定食を掻き込んだが、食べ終わったのは昼休み終了三分前。二人はダッシュで食器を食器置き場に戻し、教室へと戻った。


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