第3話 過去
英慈と潤也は休み時間にはいつも二人で話をした。教室を移動する時も一緒。昼休みは一緒に中庭で弁当を食べた。英慈がサッカー部の練習中、それまでは教室のベランダからこっそり見ていた潤也は、今は校庭で堂々と見ていた。そして、部活が終わると一緒に帰った。
ある日、英慈と潤也の選択教科が別々で、二人が離れた休み時間、今まで英慈と仲良しだった裕介が英慈を捕まえてベランダへ出た。人に聞かれないようにするために。
「英慈、よく聞け。三笠の事だ。」
「どうした?潤也がどうしたって?」
ベランダの手すりに寄りかかりながら、英慈は真剣な顔の裕介とは対照的にのん気に言った。
「中等部2年の時、1組の学級委員だった矢代ってやつと、体育教師の稲木が二人して階段から転落して大けがした事、覚えてるか?」
裕介が少し小声で言った。
「ああ、そんな事あったな。」
英慈はまだのん気に言った。
「あの二人、階段の踊り場でもみ合って落ちたわけだけど、あの場に三笠がいたっていう話を聞いたんだ。」
「ん?その場にいた?ってどういう事だよ。」
英慈は少し前かがみになった。
「噂によると、三笠はその事故の少し前から矢代と仲良くなったそうなんだが、体育教師がどうも三笠の事を気に入ってて、矢代と稲木は三笠の事を取り合って揉めて、つかみ合いになって転落したらしいんだ。」
「まさか!」
英慈はハッと短く笑った。
「そんなの単なる噂だろ。中一と大人が取り合いとか、ありえないだろ。」
英慈がそう言うと、裕介は少し唇を尖らせて、
「まあ、そうなんだけどさ。でも、もう一つ噂があってさ。」
裕介は気を取り直し、また真剣な眼差しになって続けた。
「三笠はあの事故の少し前に前髪をバッサリ切って、それまで隠していた目を出したらしいんだ。そして、それを機に矢代と仲良くなった。つまり、獲物を見つけると前髪を切って、あの目で獲物を仕留める、ってわけだよ。」
英慈は裕介の顔をじっと見た。けれども裕介を見ていたのではなく、前髪を切ってきた潤也の事を思い出していた。
「お前、三笠に狙われたんだよ。そんで、まんまと仕留められたってわけだ。あいつは疫病神、いや、死神かもしれないぜ。気をつけろよ。」
裕介はそう言うと、一人でさっさと教室に入って行った。英慈はその場でちょっと考えたが、首を傾げ、首を2,3回横に小さく振った。
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