LOSTTIME~妖眼を持つ少年
夏目碧央
第1話 背中
校舎のベランダから見える景色は、いつも夕焼け空。
それは、いつも放課後だから。
サッカーボールを片手に、校庭に駆け出していく彼を、いつも見ていた。
私立の中高一貫校であるLT高校は、サッカー部やバスケットボール部の強い男子校である。高等部2年3組の教室では、今日もサッカー部の柿沼英慈を中心に、話が盛り上がっていた。英慈はサッカー部のレギュラーで背番号11。明るくて、クラスをいつも盛り上げる。授業中でも休み時間でも。
その英慈が、普段ならそんな教室の端の席になど目もくれないのだが、たまたま投げ合っていた消しゴムが転がってしまい、拾った際にそれに目を留めた。
「あれ、お前絵が上手いな。」
それは、誰かの後ろ姿の絵だった。鉛筆でノートの1ページの半分くらいを使って描いた落書きだったけれど、影をつけて遠近感もちゃんと出ている絵だった。
話しかけられたその絵の描き主、三笠潤也は、サラサラした前髪を鼻の頭まで伸ばしており、傍から見て全くと言っていいほど目が見えなかった。潤也は英慈に声をかけられ、顔を上げて英慈を見上げると、体をビクッとさせ、口をぽかんと開けた。
「なんだよ、その驚きようは。」
英慈は苦笑した。潤也は開いた口を閉じ、唾をごくんと飲み込んだ。
「英慈、何やってんだよ。」
英慈と消しゴムを投げ合っていた田辺裕介が、じれて声をかけた。
「ああ、わりい。いや、こいつ絵が上手いからさ。」
英慈が潤也を指さして言うと、
「サッカー部のエースが気にする相手じゃねえよ。」
と裕介が言った。すると英慈は、
「俺はエースじゃねえ、ストライカーだ。」
と言って手にあった消しゴムを宙にポンと投げ、それを足で横蹴りした。消しゴムは見事裕介の胸に命中した。裕介が手でキャッチできなかったのだ。教室の真ん中辺りから笑い声がいくつも起こる。
そう、英慈はシュート力を誇るストライカーだ。潤也はこっそりと英慈を見ていた。目を隠しているから誰にも分からないけれど。ノートに描いた背中の絵も、英慈の背中だった。いつも授業中に見ている背中。
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