第18話 シオンの生存



 まがまがしい黒い羽に、牛のような頭部。

 けれど、胴体部分は人間に近い。

 しかし、普通の人間ではありえないほど、筋骨隆々。


 瞳は赤く、輝いている。

 口からは、肌色の何かがおかしのようにポロポロと零れ落ちていた。


「う、あ……」


 まじかで見る、その脅威に自然と声が出た。

 のどがひきつってうまく言葉にならない。


 体が震えて、委縮してしまう。


 それは俺だけではなかったらしい。ここまで俺をつれてきてくれた馬も、怯えたように震えていた。


 逃げ出す、なんて事は出来なかった。

 あれを目の前にして、命を拾おうだなんて思う方が間違っている。


 でも、


「ラックス様! どうしてここへ!?」


 シオンの声が聞こえたから。我に返る事ができた。


「し、しおん?」


 彼女は遠くに離れていた。


 俺よりずっと町の近くにいて、魔人らしきものを見上げていた。


 彼女が無事だったことに安堵する。


 いまだ、無事な住民も両親の姿も見えないけれど、目の前の彼女が無事でいてくれた事が、ささやかな希望となって固まっていた俺の思考を動かした。


「し、おん。しおん」


 俺は動きそうにない馬をその場に置いて、自分一人で走り出す。


 彼女を連れて、屋敷に帰られなければならない。


 一刻も早く、この危ない場所から。


 彼女が無事なら、二人で屋敷に帰れれば、きっと両親も戻ってくる。


 そんな儚すぎる希望にすがりつきながら、走った。


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