対面

 私がセンターを務めるモンクスフードのデビューシングル発売日。


 一時代を築いた有名プロデューサーが手がける新アイドルグループのプロモーションビデオが朝からニュースで流れていた。


 改めて自分が今いる状況の凄さ、世間の注目度を思い知らさせる。今日は午後からそのCDの発売イベントがある。

 なんとなく家を出てから周りの目が気になってしまい俯きながら自分の影を見ながら私は登校している。

 私が学校に行く目的は勉強の為でも、青い春の為でもない。

 例のドルオタと接触する為だ。あの手紙をもらって以降マメにメールのやりとりをしている。

 まだ顔も知らない。私がクラスメイトの情報を知るのにはどうしても彼の存在が必要だ。

 そんな彼からの


「デビューしたらCDにサインをして!」


 そのお願いを断るわけには行かなかった。私は校門を抜け教室に向かわずに朝のホームルーム前の中庭で約束を果たしたら、ホームルームが始まる頃には学校を静かにあとにするつもりだった。


 しかし朝練終わりの生徒たちやなにかしらの理由で早く来ている生徒たちがたくさんいた。

 朝のニュースの影響なのかたくさん声をかけられ、一緒に写真を撮る事を断りきれずになかなか中庭には辿りつけなかった。


「SNSに載せていい?」


 その一言が私に火をつけた。

 CDデビュー日、私の名前を検索してくれる人が多くいるだろう。デビュー日にもかかわらず登校し明るく同校生達に嫌な顔1つせずに一緒に写真を撮る姿が世間に嫌な風にうつる事はないだろう。

 そんな計算高さを昔から持ち合わす事ができたなら、私と父の人生は変わっていたかもしれない。

 そんな事を考えながらも名前も知らない人達と写真に写ることを快諾しながら笑顔を見せポーズを決める。

 ほんのわずかながらも私にはアイドルとしてのプロ根性が芽生えていた。


 一通りそんな応援へのファンサービスを終えると朝のホームルームが始まるチャイムが鳴りたくさんいた人間達は各々の住処である教室に慌てて駆け出した。


 チャイムが鳴り終わる頃には中庭にたどり着く事が出来た。そこにはどれだけの時間待っていたのか、有名CDショップの袋を手にした男子生徒の姿があった。


「ごめんなさい、遅くなりました」


「大丈夫!ってか本当に来てくれてありがとう!」


「遅刻になっちゃうけど大丈夫?」


「大丈夫!遅刻なんかじゃ足りないくらいに大きなイベントだから!」


 発する言葉が不自然に感じるのは彼の外見のせいなのだろう。生徒手帳に書かれている模範的な生徒の風貌とは大きくかけ離れている。

 彼はむしろ不良と呼ばれかねないような外見だったし、クラスで存在を消しクラスの誰にも興味を持てないでいた私ですら知っている。

 彼はスクールカーストの頂上付近にいる人気者だ。


 想定外だった。上位では下位のパシリ君みたいな人間を想像していたのでこの小さな小さな学校と中のコミュニティで最上位に近い人間が私のファンなのだ。嬉しい誤算だ。


「これ!きのうフラゲして買ったんだ!!まじ莇すげぇな!」


 フラゲ。その時は知らなかったがどうやら発売日前日に一部ショップでは購入することができるようだ。


 私はそのCDに約束通り、考えたてのサインをする。


「日付入れて!」


「これ持って一緒に写メ撮っていい?」


 彼の細かい注文に言われるがまま対応する。一通り彼の注文を聞き終わると彼は満足そうに一息ついた。


 私のターンだ。


「教えて、あの子。こないだ学校に来た時泣きながら教室を飛び出して行った子ってどんな人だっけ?あれからどうしてる?」


 彼は話難そうに深く溜息をついたあと喋り始めた。

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