なかま


初めての番組収録。

緊張でほとんど覚えていなかった。あっと言う間に終わってしまった。

MCの2人の方はランドセルランドって言うコンビ芸人さんだった。が、ほとんど絡みは無くしょうもないドッキリをたくさん廊下やらいろいろな場所でしかけられているのを、その2人がモニター越しにつっこみを入れたり茶化したりだったりする内容だった。

私はあまりに全てのどっきりに無反応だった。


今まで受けてきたイジメ、リアクションをとるとさらに必要に嫌がらせをうけることが多いので私は何をされても表情1つ変えずにいる術を習得していた。

蹴られようが、髪を切られようが、いきなりバケツの水を浴びせられようが、私はなにもなかったかのように読書を続けられる。


身に染み付いてしまったそんな生き方テレビのドッキリ企画では異色を放った。


いきなり巨大風船を投げ込まれたり、デビューおめでとう!のケーキを顔面に投げつけられたり、廊下ですれ違うおじさんにいきなり「コラ!」と大声で叫ばれたり、楽屋のロッカーからいきなりブリーフ姿のおじさんが現れても私は一貫してノーリアクションだった。


きゃーきゃー騒ぐ女子達の中私はただただ何もしなかった事で逆に番組内で大きく取り上げられる事になる。


それにしても一日でこんなにもシャワーを浴びたのは初めてだ。汚れては洗って、洗っては汚れての繰り返しはひどくめんどくさかった。


「絶対!お前、莇!いつか感情植え付けてやるからな!」


「これが涙?的なやつですか?」


「ロボじゃん!!ちげぇーよ!なにお前ロボだったの?」


そんなようなやりとりを最後にMCの方たちとしたのだけはなんとなく覚えている。


帰りの寮に向かうバスの中、


「あれ、やばいびびった!」

「ってか、私あのリアクション放送されたら嫌だなぁ!!」

「でも映れた方が良くない?」


私は会話に参加できずにいたが、

「里奈ちゃんどんなリアクションしはったん?ロボやっけ?予想できひんわ!」

むっちゃんが会話に混ぜてくれた。


「なんにも、リアクションできなかった」


ぜったいうそだー!バス内が私の話しで盛り上がる。まだオンエアされていないので私達はお互いのリアクションを知らない。


たぶんオンエアを寮にいるメンバーみんなで集まって観る事になるのだろう。

そして、そこでもロボと馬鹿にされる事になるのだろう。


それでもここにいる人たちにはなんだか暖かさがあるよう感じられる。

まだ私はこの世界の事を何も知らない。


あの小さな世界ばかりがどこまでも広がっていると思っていた。

そう考えるとあの小さな世界の中から復讐すべき相手を探すのは簡単な気がしてきた。希望が持てる

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