アルビス市民国編19 外交官出発の巻
——暑苦しくて疲れました。今日の試合はこの一戦らしく試合は明日の朝決めると言う話なので今日はそこで闘技場を出ました。
受付では慌ただしく職員らしき人達が大声で騒いでいました「……不味いぞ、大盤狂わせだ……もっと強い冒険者は居ないのか?」「
ところでエレシアちゃんはどうしているのでしょうか?
屋敷に帰ると既に話を聞きつけたのか老女中が話しかけてきます。「あの冒険者連中に勝ったんだって?そりゃ凄いわ。これは私からの特別な差し入れだよ」と言って何やらお菓子らしきものをおいていきました。
一目見ただけであきらかに遅効性の毒が混ざっているのが見て取れました。頭の悪くなる毒と明日の昼ごろ痺れる遅効性の毒が混じっているのが確実に分かりました。後は下剤でしょうか?この女中の性格はとても悪そうです。……とはいえ手をつけないと逆に怪しまれそうなので食べたふりをして巾着に放りこんでおきました。これは後で
一通りアイデアを書き留めたところに左右の口調が丁寧な方がやってきました。左の……。
「賢者様、左のユリニアです。これから外交官の引き継ぎがあるのですが時間があれば来て貰えないでしょうか?」
「あのいつもくたびれた様子の死んだ魚の目をした外交官さんでしょうか?何を遣っていたのかは知りませんがかなり大変な任務だったと思うのですけどそれから解放されるならから盛大にお祝いをしてあげないと行けませんね」
「いえ、お祝いしている時間はありませんのでねぎらいの言葉とお土産を渡すぐらいしか出来ないと思います。お土産には日持ちする香辛料を既に用意してありますので賢者様が特に用意する必要はありません。しかし解放とは少し違いますね。王国に戻ると修羅場が待っているのでは無いかと思います」
修羅場と言う単語に身を乗り出して聞いてみます。確かにエルフの王宮はくせ者が沢山いるから今以上に振り回される事は恐らくあるでしょう。特に王妃様案件で頭を抱えていそうな外交官さんのくたびれた姿が未来視できました。どうやら外交官さんはどうやらこの後も荊の道の様です。
「それなら余計にちゃんと労ってあげないと行けませんね。アイスクリームとかが良いでしょうか?」
「それは、すぐに食べないと溶けてしまいうので出発まで時間が無い外交官に結構厳しいと思います」
「それでは非常食にと買っておいたフェルパイア特産の干し果実の詰め合わせとかはどうでしょうか?かさばらないですし、日持ちもします、それに生果物違って多少乱暴に扱っても大丈夫です」
「荷物にならなければ良いのでは良いのでは無いかと思います。外交官は、普段と違う少し特殊な方法で帰るのであまり荷物が詰め込めないのです。それはともかく急がないと出発に間に合いません」
左右の口の丁寧な方はそう言うと私の手を引っ張っての公使館の方に向かいました。
「……どうやら間に合ったようです」
公使館はその辺りにある小さな家と言っても良いぐらいこぢんまりした邸宅で一見してもここがエルフの王国の外交官が住んでいる様には見えません。これは夏精々行商人か工人の住んでいる家といったところでしょうか?そしてアルビスの建物らしく窓がありません。内部に中庭があり窓は全てそれに面しています。
これは夏の強い日差しの対策だそうです。公使館自体は広いのですが中に入ると書類や何に使うのかよく分からない品々が散乱しており見た目よりかなり狭いです。公使館の中には馬舎があり、そこには馬が繋いであります。
家の中に入ると「フ……フレナ様いらっしゃりましたか?」とエレシアちゃんが出迎えてくれます。なお清掃係はこの後用事があると言って私を置いてそのまま街の人混みに消えていきました。
「こ……これは、フェルパイア特産のフェルパイア・ミントを煎じたミントティなのですがお口に合いますでしょうか?」
「もしかしてエレシアちゃんが入れてくれたのでしょうか?」
「あ……はい。たまにはこういうことをするのも気分転換になりますし……」
エレシアちゃんが入れてくれたお茶と言えばこれは是が非でも飲まなければ行けません。これは人類の義務です。……と言う訳でお茶の入ったカップを手に取ると一口飲んでみました。すると口の中で爽やかな芳香が漂い鼻に抜けていきます。フェルパイア・ミントは突き抜けるような鋭い清涼感とすっきりとした後味が特徴の様です。お茶と一緒に入れた砂糖の甘味がすっきり感を増殖し少しばかり爽快な気分になります。
「これはとても美味しいです。エレシアちゃんはお茶を入れるのが得意なのですね」
「フ……フレナ様にそう言っていただけるとありがたいです。……これはお茶に合わせたクッキーです。これも公使館の食堂を作って作ってみました」
クッキーが山盛りになった皿から一つ摘まんで口の中に放り込むと芳ばしい小麦の香りと濃厚なバターが調和し、しっとりと甘くそしていてしつこくない贅沢な味わいがします。これは白い小麦ではなくアルビスの市場で売っている黄色い小麦を使った感じです。少し癖がありますが食感と小麦がバターに負けずに存在感を主張していました。その後お茶を飲むとバターの脂っこさが中和されとても爽快な気分になります。
「このクッキーもとても美味しいです。エレシアちゃんはどこでこれを学んだのでしょうか?」
「こ……これはここの公司にほとんど手伝っていただいたもので……私は材料を混ぜたぐらいです……」
エレシアちゃんが顔をあからめ恥ずかしそうに言います。
「それではそろそろ出立の時間ですので皆様、挨拶があればどうぞ」筆頭でない方の秘書官が言います。「そして、こちらに居るのは新しい外交官です。新しい仲間なので歓迎してください」
少し冴えていなそうなエルフを差しながら言いました。
「それじゃ時間も無いしさっさと歓送会を始めましょう」と筆頭書記官が言うと古い外交官を縄で馬の鞍に括り付けていきます。
「ちょ、ちょっと待ってください。これはないのでは?……そもそもこれって歓送会でしょうか?」
鞍に括り付けられた外交官が言います。
「こうすれば寝ても振り落とされないから安全ですよ。それに次の駅にたどり着けば降りられますから」
駅と言うのはデレス君主国の街道の一定区間ごとに設けられた馬の乗り換え場の事だそうです。
「で、でも……次の馬に括り付けられるのでしょうね?」
「早く帰るのが仕事なのですからそれぐらいは我慢しなさい」
と筆頭秘書官は馬に軽くムチ入れします。すると外交官を乗せた馬は北に向かって
最初、外交官の「助けて−——」と言う悲鳴がしましたが、しばらくすると遠ざかり、やがて聞こえなくなりました。多分気絶したと思われます。馬は一気に《砂の大瀑布》を飛び越え、最初の駅まで
「これで一つ片付きました」
筆頭書記官がすがすがしい顔で言います。丁度そのころ日が暮れようとしました。そろそろ鐘の音がなりそうな感じです。
「それでは屋敷に戻る前にひとっ風呂浴びてきます。闘技場で汗もかいたことですし」
そえだけ言い残すと
屋敷に戻る途中、後を付けてくる人影があったのですが気にしないで起きましょう。
……尾行にしては目立ち過ぎるので放置しておいても問題は無さそうです。数名……五人ぐらいで回り持ちで後を付けている様ですがどこに居るのかはっきり分かります。しかし後を付ける目的が分からないので様子見する事にしました。
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