エルフの王国28 エレシアちゃん派遣団
翌日、大使館に参ります。エレシアちゃんが正使で、私が副使らしいです。エルフの王国とは全く関係ないはずですけど、なぜか関係者にされています。私は里人なのですが、なぜか王国人として振る舞わないといえけない様です。今回はうかつに口を滑らすと
久しぶりにあったエレシアちゃんに挨拶をすると馬車に乗り込み大使館に向かいます。
「たのもう」
山手地区にある大使館に乗り込んでいきます。
「フ……フレナ様それは違います……」
「フレナ様は辞めましょう。エレシアちゃ……様の方が今日は上司なのですから」
「そ……そうですね……フレナさ……ん。流石にこの場で『たのもう』は違います」
「あ、そうですね」
レクチャーをすっかり忘れていました。
前回と同じように門番が出迎え門をくぐっていくと白い大きな建物が見えてきます。
中に入るとメイドさんが出迎えてくれます。
「しばらくしたらお呼びしますのでこちらでお待ちください」
しばらく控え室で待たされ、大使の執務室に呼び出されます。
今回はエレシアちゃんが上司役なので横に立ってればいいだけですよね。メイドさんが執務室の扉を開けると、すかさずレクチャー通りのポジションを取り、エレシアちゃんを中に招き入れます。
「ささ、ずいっと」
「……フ……フレナさ……ん。『ずいっと』も違うと思います」
ここからは共通語で会話する事になります。格式ばっった挨拶から始まり、会話が始まります。
「ドルスです。以前あいましたな」
「は……はい。前回はディーニアさんのお付きで来ました」
当然、会話は弾んでいません。
このような場所での雑談はエレシアちゃんにはまだ荷が重いのでしょう。
「お、そこに居るのは前回髭を褒めた御人ですな。どうです今日の髭も格好いいでしょう」
ドルスさんは、髭を撫でながらこちらに向かって言います。どうやら私が対応しないと行けないようです。
「ええ、よくお似合いです」
「今日の要件は《同盟》の件ですかな」
「いえ、エレシア公女のフェルパイア連合への外遊の件で御座います」
「ほお、四王女とまでは行かぬまでも公女が来なさるのか。それで公女はどこに居られる」
何を言ってるのでしょうか目の前に居ますけど……。
「ここに居られるのがエレシア公女で御座います」
「あ、ああ……随分若そうに見えるが……この娘か公女であるか」
なんだか驚いてます。それより外交官は先に話をドルスさんに通して居なかったなのでしょうか……。
「ド……ドルス殿。今回は私が王妃の名代としてフェルパイア連合の友誼を深める為に赴くことになりました……よろしくお願いします」
「……まぁ、そこまで堅苦しくしなくても良いぞ。それでいつ頃参られるのか」
「す……数日の
「それは随分急なことですな。年末の忙しい時期にわざわざありがとうございます。これで我が連合とエルフの王国と同盟が上手くいくと私の胃の負担も軽くなると言うものです」
ここの暦では年末なのでしょうか……。随分里の暦と違うような気がします。里の暦は白い月が十二回満月になったら一年と数えるだけで細かいところは別に決まっていないのですけど。月の満ち欠けが一部の魔法に影響するので里でも月の満ち欠けだけは確認しているわけです。それが十二回来ると一年としているだけで、年の終わりはもう二か月ほど先です。白い月の満ち欠けは三十日周期でそれが十二回来ると一年と言うことは一年は三百六十日です。しかし、外界の暦は農業と連動しているのでは無いでしょうか。図書館で時間が有るとき調べましたけど穀物と言う草は一年周期で栽培するそうです。恐らく収穫が終わり次の種まきにそなえる期間が年の終わりと始まりなのでしょう。
そこからはトントン拍子で話が進みます。日程が決まっていない事を知るとドルスさんは帰りに挨拶回りに行くべき国のリストを渡してくれました。
『二大国と連合本部の三箇所は最低でも回るべき』と書いてあります。それ以外にも東西南北に何カ国か重要度順にリストが書かれています。
「ホントは全部の国を訪問して欲しいところなのですが、それは物理的に無理でしょうから時間があればこれらの国を訪問してくださると嬉しいです」と言っていました。
あらかじめスケジュールを建てる必要がありそうな気もしますが、道中、何が起きるか分からないので予定はかなり流動的になるので、最初の国に着いてから次の訪問先を決める方が現実的ではないでしょうかと言うのが外交官の話です。
最初の国に着いてから地図を見ながら検討する事になりそうです。
まず連合本部を目指すことにした方がよさそうです。そこで大半の国とは挨拶することが出来る可能性があります。そこから二つの大国に行きその間に小さな国を回るのが現実的では無いでしょうか。
連合本部はフェルパイア連合の真ん中近くにある小さな都市国家フェルプにあります。フェルプの西側にある大国がディベーユ共和国で、西にある大国がイルム王国だそうです。大国と言ってもどうやら比較的大きな都市国家だそうです。ただし周辺諸国への影響力がかなり大きいと言う話です。
大使館から馬車で王宮に戻るとその旨を報告しなければなりません。王宮に戻るとわざわざ王妃が飛び出て出迎えし家臣の皆さんを集めます。
「みなさん、集まりましたか。これからエレシアちゃんの門出ですよ。準備を頑張りましょう」
王妃が叫んでいます。後ろから歓声が沸きます。中に〔エレシアちゃん応援団〕と言う文字が見えた気がしますが恐らく気のせいです。
横をみるとエレシアちゃんが顔をあからめて恥ずかしがっています。
「ほらほら、何を恥ずかしがっているのかしら、これからエレシアちゃん派遣団の結団式よ。主人公が照れていたらダメでしょう」
「で……でも王妃様大げさすぎます」
「いえいえ、これぐらいやった方が良いのです。賢者様もそう思いますよね」
「あ、はい……」
王妃の勢いに押さて思わず言ってしまいました。
「ほらほら、賢者様もこう言っていることですし、主賓として皆に何か言いなさい」
王妃にエレシアちゃんが急かされお立ち台の上に立たされます。エレシアちゃんはすーっと息を吸って一呼吸おいてからゆっくり声を出します。
「み……皆さん急なお話で大変でしょうがお手伝いお願いします」
口を震わせながらエレシアちゃんが言いました。「お願いします」と言い終わると深いお辞儀をします。それを見て、涙している人がいるのはやはり気のせいだと思います。
「エレシアちゃん、まだまだ、話しても良いのよ。それでは話が短かすぎないかしら」
「で……でも何を話したら良いか分からないので……」
「まぁまぁ、仕方ないですね。私が代わりに挨拶いたしましょうか……」
王妃様の話はやたら長すぎるので勘弁願いたいところですが、長い演説が始まります。さすが、フィーニアの母親です。娘に負けないほど無駄に話が長いです。心を滅却して話が終わるのをじっと待ちます。
「……と言うわけです」
どうやら王妃の長い演説が終わったようです。エレシアちゃんと一緒に胸をなで下ろします。
「ところでこういう話もあるのですが……」
……どうやら王妃の話が更に続きます。終わったと見せかけて続けるとか芸が細かいです。とはいえこれでも
「……ようやく解放されました」
「は……はい、フレナ様、王妃様の話は相変わらず長いです」
「あれを皆さんよく我慢できますね」
「が……我慢してないとは思います。皆さん慣れていますから……」
王妃の長話が終わりエレシアちゃん派遣団結成集会は解散になりました。各々持ち場に分かれて仕事に取りかかります。旅に必要な経費を計算するもの、物資を揃える者、人員を揃えるもの、各国に飛び調整をするものそれぞれの仕事があるようです。エレシアちゃんは服を合わせたり、信書のチェックに借り出されているようです。
その間、私は暇になります。図書館にでも行くべきか冒険者ギルドで葡萄ジュースでも飲みに行くべきか悩ましい問題です。
荷馬車の中で実験の続きも良いですね……そうえいばあの馬は外遊に出かけている間どうしたら良いのでしょうか。そろそろ身の振り方を聞かないと行けません。いっそのこと人参が食べられる所にでも引き取って貰いましょうか……。
結局、冒険者ギルドで葡萄ジュースを飲んで、それから図書館に戻り本を漁ろうかと思いました。
冒険者ギルドにやってきました。
「たのもう」
扉を開けるとそこには……ルエイニアが床に転がっています。
「ギルドマスターは、一体何をなさっているのですか?」
「やだなぁ、単に空の重さを感じていただけだよ」
「空の重さですか」
「そうだよ」そのままルエイニアは跳ね起きます。「よっと」
「それで、結局何をやっていたのでしょうか」
「やだなぁ床で寝転んでいただけだよ。仕事をさぼっていたから絞られて転がされていた訳ではないよ」
「はぁ、そうですか……」
ルエイニアは放置しておき、奥のカウンターで葡萄ジュースを注文します。
「やっぱり疲れたときは葡萄ジュースですよねぇ」思わず口からこぼれます。
「……ん、それぶどう酒じゃないのか」
「いえいえ、お酒とか飲み物では無いです。あれは毒です」
「そうかな。酒は良いものだぞい」
そう言いながら昼間から飲んだくれているのは、人間さんの老人のゼリウスさんでした。
「そういうわしもちびちび飲んでいるだけだどな……昔はもっと飲めたのだがなぁ」
ゼリウスさんは回想に入っているようでした。
「そろそろ、エルフの王国での依頼も終わるからまた旅に出るからな」
「依頼をしてたのですか」
「都に少し野暮用があってだな、それがようやく片付いたとこじゃな。野望用が終われば帰るものだぞ」
「ゼリウスさんの故郷はどちらなのですか」
「ずっと東の方だ……東の果てから海を渡って、その先にある島じゃな……ほっほ、もう何年も帰ってないがな」
不意にゼリウスさんの手がこちらに向かってきます。すかさず回避します。
「ほお、それも避けおるか……」なにやら微妙に感心しております。
……しかし、この老人さんは何をしようとしてたのでしょうか……油断も隙もありません。
「それよりフレナさん王国から直の依頼なのだろ。楽で良さそうな依頼じゃな」
「ええ、それですけど見た目よりかなり大変ですよ。何しろこの依頼は剣と魔法だけでどうにかなりません。それからしばらく都には戻ってこれませからな」
「そうするとまた
ゼリウス翁は「ほっほ」と笑いながら笑みを浮かべます。
「そういえば、フレナさんはフェルパイアの方へ向かうんだっけ」
そう言いながら間に割って入ってきたのはルエイニアです。
「そこに僕もついていこうかな……」
どうやら隠れて着いてくる気まんまんな気がしますが気のせいでしょうか……。
「ギルマス!そこでさぼってないで仕事してください。どこにこれだけ書類を溜め込んでいたのですか……」
ルエイニアは受付嬢にしょっぴかれて連れて行かれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます