episode6

「どうしたんだ?急に笑い出して……まさか壊れたか⁉︎」


 全く的外れの回答に悠人はわざとやってるのか?とついつい思ってしまうが、生憎彼は真面目にそう言ってる。

 これ以上醜態を晒すわけにもいかないのでここは無難に話を続けるとする。


「そう言えばお前……名前は?」


 普通名前を聞くなら自分からだが、このバカには普通が通じない。ならばと悠人は一歩踏み込んで質問をする。


「俺か?俺は新城勝斗しんじょうかつと。お前は?」


「俺は竜胆悠人だ」


「悠人か!よろしくな!あ、俺のことは勝斗で良いからな」


「分かったよ勝斗。こちらこそよろしく頼む」


 勝斗は中々変わった奴だったが悪い奴では無い。

 むしろ親しみやすいタイプとも言えるだろう。少なくとも悠人よりはコミュニケーション能力も高い。

 それは悠人がこのクラスに入ってから誰にも自分から話しかけていないことを見れば明らかだ。


「にしてもなんだか暗い感じのクラスだなぁ」


「まぁ……いい雰囲気とは言えないな」


 勝斗の言葉に悠人も同意する。

 それ程このクラスは静まり返っていた。


「とは言え元気な奴もいるけどな!あそこにいる無駄にイケメンな奴とか後は俺らの隣にいる女達」


 勝斗はそう言ってる目配せする。

 悠人が勝斗の方向を向くと確かに勝斗の言った通り、かなり顔立ちの良い緑の髪の青年と悠人達のすぐ隣に座る、女生徒二人組は顔色も良く、会話を楽しんでいた。

 ……何故か緑の髪の青年は一人で楽しげに話していたが悠人には良く分からなかった。


 と、悠人と勝斗の視線を感じたのか隣の女生徒、正確には悠人の隣に座る生徒は後ろにいる女生徒との会話を一旦止め、こちらを見てきた。


「なんか用?」


 彼女から発せられた言葉は簡素なものだったが、その目は僅かに鋭い。

 おおよそ気が散るからこっちを見るなと言っているのだろう。


「すまな……「なんだ?赤髪。用がなきゃ見ちゃいけないのか?」……おい」


 悠人はすぐ謝ろうとして謝罪の言葉を述べようとしたが、後ろの席のバカ、もとい勝斗が悠人の言葉を被せるように赤髪の女生徒に話しかけた。


 赤髪の女生徒は先程よりもさらに強い眼光で勝斗を睨む。


「はぁ……貴方みたいな馬鹿にこっちを見られてもいい思いをするわけないでしょう?率直に言って迷惑なの。わかったかしら?」


「馬鹿⁉︎それは俺に言ってんのか⁉︎」


「「他に誰がいる(の?)……」」


 流石にこれには悠人もそう突っ込まざるを得なかった。

 偶然にもその言葉は隣の赤髪の女生徒と被った。

 するとその女生徒は今度は悠人の方を見る。


「どうやら貴方も被害者だったのね。この馬鹿に話しかけられているし」


「また馬鹿って言ったな⁉︎」


 勝斗がなんか言ったが当然無視。


「まぁ、こんな奴だが悪い奴じゃない。許してやってくれ」


 悠人は勝斗がなるべく傷つかないように当たり障りのない言葉で返す。

 すると勝斗は何故か感極まった様子で机からその大きな身体を乗り出して悠人の肩をしっかりと掴む。


「悠人!お前はいい奴だな!友達になってよかったぜ!」


「うわっ⁉︎なんでそうなるんだよ。てか離せよ」


 悠人は勝斗を引き離しながらそう言う。

 勝斗の掴む力はその身体つきの通り中々強いもので、悠人も勝斗を引き剥がすのに随分と苦労していた。


「……やっぱり貴方友達間違えてない?」


 赤髪の女生徒は隣でそんなことを言う。

 これに関しては悠人も


「……そうかもしれない……」


 と弱々しく呟やいた。


「ふふふ」


 すると今まで黙ってこちらのやり取りを見ていた。もう一人の女生徒、濃い青の髪の少女が突然笑い始めた。


「え?香織どうしたの、急に」


 それは友達であろう赤髪の女生徒も困惑するような事だったようだ。


「あっ……ごめんなさい急に。でも沙耶がそんな風に感情を表に出して誰かと会話する事なんて滅多にないからつい」


 どうやらこの女生徒達は昔からの旧友だったらしい。

 彼女はそう言ってまた笑った。


「いや、別にそんなんじゃ……」


「なんだ赤髪?お前なんだかんだ言って俺らと話すの楽しかったのか?」


「はぁ?そんなわけないでしょ。後その赤髪って呼び方やめてくれる?」


「んなこと言ったってお前の名前なんて知らねぇし」


「はぁ……普通人の名前を聞くならまず自分からでしょ?そんなこともわからないなんて貴方って本当に馬鹿ね」


「なっ⁉︎テメエだってその馬鹿っての止めろよ!俺は別に馬鹿じゃねぇぞ!」


 いや、馬鹿です。

 思わず出そうになったその言葉を悠人は辛うじて呑み込む。


「はぁ……まぁいいわ。私の名前は鶴見沙耶つるみさや。あんたとはよろしくするつもり無いけどそっちの黒髪の貴方とは是非仲良くしたいわね」


「はぁ⁉︎テメェなんで悠人だけなんだよっ⁉︎」


 そう言いながらバチバチと火花を散らす沙耶と勝斗。

 こうしてると一見犬猿の仲に見えるが案外気があうのかもしれない。

 なんてそんなことを悠人は考えているともう一人の女生徒がこちらまで来ていた。


「私は根岸香織ねぎしかおりです。よろしくお願いします。えっと……」


「俺は竜胆悠人。こちらこそよろしく。そっちのは新城勝斗。さっきも言ったが悪い奴じゃない」


「竜胆悠人さんですね。悠人さんとお呼びしても?」


「あぁ好きに呼んでくれ」


「では悠人さんと……勝斗さんもこれからよろしくお願いします」


「おう!よろしくな!香織」


「ちょっと!香織のこと馴れ馴れしく呼ばないでくれる⁉︎この馬鹿」


「あ?なんて呼ぼうと俺の勝手だろ?赤髪!」


 全く、初対面とは思えない仲の悪さである。

 いがみ合う二人の様子を悠人と香織は苦笑いを浮かべながらで見守るのだった。

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