episode0-3
「学院?」
突如出てきたその単語に黒髪の青年は首を傾げる。
「そう。悠人も知っているでしょ?」
「あ、あぁ……十六歳から入学出来て卒業すれば軍に入れる許可が得られるっていうあの……」
軍に入る条件に学院の卒業というものがある。
これはある程度の魔法に対する知識と経験を習熟させる必要があるからだ。
「そ、とりあえず悠人にはそこへ通ってもらいたいんだけど」
黒髪の青年と対峙しているのはオフィスチェアに座る二十歳くらいの茶髪の女性。
長い髪を後ろで結っておりポニーテールにしている。整った顔立ちにモデル顔負けの見事なプロポーションを持つ彼女は十人の男性が入れば十人が振り返る様なそんな美人だ。
「はぁ……」
悠人と呼ばれた黒髪の青年はいまいち状況が呑み込めずに小首を傾げた。
黒髪の青年の名は竜胆悠人。
外見は黒髪黒瞳。世界政変以前の日本人の外見的特徴を持つ彼の身長は180センチ届かないくらいで中肉中背といった感じた。
世界政変以前、と注釈が付くのは現在では黒髪黒瞳という容姿をもつ日本人はなかなか居ない。むしろ珍しいくらいだ。
政府の見解では異能というものが潜在的に秘められた事により第二世代の容姿にも何らかの影響を及ぼしたのだろうというものである。
そんな悠人は今年で十六歳となり、魔法学院への入学条件を満たしている。
茶髪の女性は悠人に対して魔法学院へ入学するように持ちかけていた。
この歳になれば誰もが一流の魔法士に憧れ魔法学院への入学を希望する。
しかし悠人は首を横に振る。
「そんなとこに入る必要があるの?」
さらに学院に入る事に意を唱えた。
普通ならばそんな悠人に対して愚か者だの夢が無いつまらない人間だのと罵倒の言葉を浴びせられる所だが生憎悠人は普通の十六歳では無い。
「それに
至極普通、といった様にそう宣う悠人。
だが悠人の言う事は尤もである。
悠人には学院に行く時間もましてやそこで学ぶことなど何一つ無いのだから。
棗と呼ばれた茶髪の女性は悠人の拒否の理由を聞き、まぁ分かっていたと言わんばかりにオフィスチェアの背凭れに深く寄りかかり「はぁ……」と溜め息を吐く。
神童棗。
それが彼女の名前だ。
姓が違えど棗と悠人、実は二人は兄弟である。
棗は悠人と二人暮らしでこの家に住んでいるが仕事の影響でなかなか家には帰ってこない。
尤も悠人もこの家に帰る事は多くはないのだが……。
棗は今年で二十歳になり、現在は日本軍技術開発課に所属している。
技術開発課とは簡単に言えば、異能者が使う武器である《
日本軍は優秀な技術開発課のお陰で軍事力が飛躍的に上がっている。
ついでに言うのであれば棗は世界で五人しか造ることが出来ないと言われている《
《星装神器》とは《神装魔機那》の一種でその中でも最も強力とされている武器の総称である。《星装神器》には意思があると言われ、使用するにはなんでも持ち主が《星装神器》に認められなければならないとか。
そんな強力な武器を造れる棗は日本軍にとっては絶対に手放せない人物なのである。
「まぁ、そう言うとは思ったよ?けどまぁこっちにも色々と事情があってね。上からの命令なわけなのよ」
「はぁ……」
「悠人の言う通り、既に軍に所属している悠人には学院に入る理由も意味もない……けどどうやら上層部の方は今回、悠人に
悠人が学院を必要としない理由はここにあった。
それは悠人が既に日本軍に入隊しているからである。
悠人が日本軍に入隊したのは三年前のことなのだがその時の事はまた別の話である。それに加え悠人の年齢は未だ十六歳。にも関わらず日本軍に入隊しているのは余りに奇怪なことであるが先程述べた通り、生憎悠人は常人ではない。
とまぁ、そんな理由で実際に兵役がある悠人にとっては学院に通うのはいざとなった時に混乱を招く事になろう。
しかし、
「任務?」
任務という単語に嫌でも反応せざるを得ない悠人は真剣な眼差しで棗を見据える。
棗は一つ頷き、続きを話す。
「えぇ、今年学院に在籍する《
「多いって……どのくらい?」
「千桜家を除く氏族は既に魔法学院に在籍又はこれから入学するわ」
「それはまぁなんとも……今年は黄金世代だね……」
「えぇ、全くよ」
棗はこれから面倒くさいなと付け加えてオフィスチェアの肘掛けに肘を置き、頬杖をつく。
悠人は棗が話した事に心底驚き、それならば自分が学院に席を置く理由に納得がいった。
六花とはこの国にある六つの氏族の総称である。
何故六つの氏族の総称で六花などと大層な名前が付けられているかと言えばこの六つの氏族はこの国にとって莫大な影響力があるからである。
どれくらい影響力がるのかというと、六花の当主の一声で軍が動く可能性すらあるほどだ。
そんな六花の名を持つ生徒が学院に五人もいるとなれば何かと問題が出て来る事も自明の理だろう。
「それでも俺以外に適任が……」
「魔法学院に入れる適正年齢を持つ者は軍に悠人を除いていないでしょ?」
「……」
なんとか逃げ道を探るものも棗の一言で悠人は押し黙らざるを得ない。
何故そこまで悠人が学院を拒むか分からない。
だが棗は何となくわかっている様でやれやれといった表情をしている。
「これは最終手段だったんだけどね……この際しょうがない」
「?」
「もし悠人がこの任務を遂行して学院を卒業すれば……」
棗のこの一言で悠人は学院に入学する事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます