第76話 ゴーレムポーション

「ただいま」


 家の中ではローレッタとレシールさんが駒を使ったゲームをしている。

 俺に気づくとローレッタとレシールさんは双子の姉妹のように声をそろえて返事をした。


「「おかえりまれ」」

「大体片付いたと思う。何か変わった事は?」

「商業ギルドから手紙が来てら」


 ありがとうローレッタ。何々ギルドマスターからだな。


 商業ギルド内の闇ギルド構成員だった人間は始末しましたと。

 物騒だな。

 しかし、対応が早いな。

 一連の騒動についてお詫びしますとある。

 俺を商業ギルドのランクCにしてくれるらしい。

 保障金は積まなくても良いがギルドを抜けても保障金は貰えないと書いてある。

 ギルドは鉄貨一枚も使ってないじゃないか。

 さすが金に厳しいギルドだ。

 まあ貰える物は貰うけど。




 さてそろそろ村の方に一度顔を出さなきゃな。

 馬車は飽きたがそうも言ってられない。

 一日休み村に向けて馬車の移動となった。




「村長さん薬草になる草はどうですか?」


 村長は畑で汗を流して作業していたが、手を止めて答える。


「これはシロクさんよぐきたねし。草は順調だ。だばって水が足りねんず」


 よく見ると草が幾分かしおれている。


「今水はどうされているのですか?」

「三百メートル離れだ川から運んでら」

「それは大変ですね」




 井戸はどうかな。

 魔法で井戸掘り。

 土魔法でドリルを作ったとして周りにパイプが要るよな。

 どちらにしろ素人には無理そうだ。

 それに掘れるならとっくに試しているだろう。


「念の為聞きますが井戸は?」

「たげ深ぐ掘ったのだばって……」


 駄目だったみたいだ。




 川から水を引くのなら出来るか。

 石から変形スキルでU字溝を作るか。

 地面を掘るのも変形のゴリ押しでなんとかならないかな。




 川が低かった場合くみ上げる水車みたいな物が必要になる。

 そういえば高低差ってどうやって計るんだろう。

 やっぱりそこはプロに任せた方が良さそうだ。

 建築ギルドに依頼だな。




 後は水車かぁ。

 水車の構造は分からないな。

 念動の魔道具でくみ上げるかそれなら出来そうだ。

 よし提案してみよう。




「川から水を引けないかやってみます」

「よろしぐ願う」




 まず川を見に行った。

 やっぱりどう見ても川の方が低い。

 これはますます素人には無理だな。




 土に変形スキルを試す。

 土と石が混ざった不思議物質になったが変形はできた。

 コンクリートほどの硬さでは無いが固まっているな。

 U字溝は要らないかな。

 でも保守するならU字溝を設置した方が良いだろう。

 U字溝の隙間はどうしよう。

 変形スキルで繋げれはいいや。




 水路はとりあえず置いといて畑を見にいく。

 魔力ゴーレムから魔力を放出し変異を促す。

 こちらも一日では無理そうだ。

 水路の準備もあるから一旦町に帰ろう。




 久しぶりに建築ギルドに顔を出す。

 仕事を受けてくれた人は計測スキルを持っていた。

 分析したところ計測スキルは魔力を飛ばして物の距離とか角度とかの情報を得るスキルだ。

 その人と水路を作る事十日余り。

 魔道具を設置してやっと完成。

 その間フィオレラには畑に魔力を放出してもらっていた。




 水を湛えた水路を前に村長は感嘆の声を上げる。


「おお、シロク様は神様のようなお方だ」

「いやだな村長。そんなに持ち上げなくても」

「村がどんどんぐなっていくの。感謝してら」


 ローレッタは感慨深い口調で話した。


「俺にも得になる事だからな。偽善だよ」




 困った事態が起きた。

 草が薬草に全て変異しない。

 さすがにこの本数を窓口で選り分けてもらうのは迷惑だろう。

 出荷する時は検品の作業が必要だ。

 レシールさんに頑張ってもらうか。

 いや無理だろう。

 薬師ギルドに依頼を出してやってもらうのが良いな。

 とりあえず一緒に収穫してポーション工房で検品だ。




 薬草の販売とポーション工房は軌道に乗り始めた。

 細かい事はレシールさんに任せる。

 俺は偶に草に向かって魔力を掛けに行くだけだ。




 少し時間に余裕が出来たので回復の魔道具をフィオレラに作ってもらう。

 もちろん、スキルはビオンダさんから分析した。

 ただ回復具合がポーションに比べて弱い。

 使い捨てではないのでこれはこれで良いんだが。

 魔石ポーションみたいな何かが出来ないかな。




 久しぶりで気分転換にオーガの領域に狩りに出る。

 狩りはもはやルーチンワークだサクッと終わる。

 運送サービスを待つ間に考える。


 魔力を持っている物ならポーションになるんだよな。

 そんな物魔石以外にあるか。

 何気なしに魔力ゴーレムを分析で見る。

 そうだゴーレムだ。


 水でゴーレムを作りそれに魔力変質を掛けたらどうかやってみよう。

 狩りを切り上げ、家に帰りゴーレムポーションを作る。


 おお出来たぞ。しかし、飲む大きさにしたら魔力の量が少ない。

 もともとゴーレム作成に込める魔力は少ないのでそれが更に少なくなった。

 これでは効果が薄いな。


 指を少し切り。ゴーレムポーションを飲んでみる。

 治ったけど大きな怪我だと駄目だろうな。


 うーん、そうだ液体にこだわらないで考えたら。

 魔力ゴーレムをポーションにしたらどうか。

 手の平に乗るぐらいの魔力ゴーレムを作る。

 魔力はこの大きさで充分だろう。

 ポーションにしてみる。


 出来たけど魔力は飲めないし、一般の人には見えない。

 どうしたら。


 まずは効果を発揮させる事だ。

 指に傷を作り魔力で作ったゴーレムポーションを傷口に接触させる。

 おお傷が治ったぞ。


 後は一般の人が使えるような工夫だな。

 見えないのはどうしようもない。

 そうだ接着スキルの魔道具とセットで売れば。

 それだと割高になるな。

 ゴーレムを大きくすれば効力は高くなる。

 高級品路線で行くべきだろう。

 三十センチ大のゴーレムでも薬草ポーションの何倍も効果が高いはずだ。


 駄菓子の容器みたいな形状にして蓋の所に接着の魔道具を仕込む。

 そうすれば安易に接触してしまう事はないだろう。

 接着は一度だけでゴーレムを使ってしまうと再び張り付かないようにした。


 後は消費の期限だな。

 ゴーレムは放っておくと崩壊する。

 後は接着の魔道具が期限まで魔力が持つかと言う問題だな。

 このへんは実験だな。


 接着の魔道具は接着の面積を減らして魔力の消費を抑えてなんとかゴーレムの期限の三日まで持つように出来た。

 消費期限が三日の薬か。

 需要あるのかな。




 ついに薬師ギルドも顔パスになった。

 ギルドマスターは書類に目を通しながら尋ねる。


「なんだい大魔法使い」

「あのポーションのようでポーションでない物を開発しまして」


 ギルドマスターは書類から視線を上げこちらを見る。


「ほう興味を惹かれるね」

「これなんですが」


 机の上に瓶を置く。

 少し落胆の色が見えるギルドマスター。

 俺を詐欺師だとでも思っているのだろうか。


「中に何も無いようだね」

「無色無臭の気体が入っていて蓋の仕掛けで固定しています」


 少し興味を引かれたのかギルドマスターは熱の篭った口調で尋ねた。


「それは変わってるさね。製法は?」

「それは秘術を使ってまして弟子以外秘密です」

「ちっ、秘術と言われてはどうしようもないねぇ」


 舌打ちをして、諦めきれない様子。




「それで効力はポーションの数倍はあると思います。今一番高いポーションは何ですか」

「なるほど、需要があって高いのは病気万能薬だね」


 エリクサーみたいな物かな。


「それを金貨一枚で売ろうと思います」

「安いね。何か副作用でもあるんじゃないだろうね」

「欠点があります。薬効が作ってから三日しか持ちません」

「それは難しいね。治療院と提携してやっていくしかないね」

「とりあえず量産してみます。あと瓶は必ず回収してください高いので」




 特別に病気万能薬の作り方を聞く。

 魔力変質を掛ける時、体に敵対する者を攻撃するとイメージするらしい。

 病気万能薬は実際万能では無く。

 聞いた話を総合するに病原菌が関係する病気以外には効かないみたいだ。

 元になる薬草は草に害を与える者を攻撃するらしい。

 封印を持っている人しか採取できない薬草だ。




 魔力ゴーレムのポーションはガスポーションと名づけられ。

 効力も副作用も問題ないとされ治療院で使われ始めた。

 蓋を押し付ける事によって治療するポーションは服を着たままでも治療出来る。

 どういう物質なのか薬師の頭を悩ませたみたいだ。

 現在、製法の糸口は誰もつかめていないと聞いた。

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