第72話 強制依頼

 封鎖されている街道は他に通る人もない。

 しばらく行くと兵士が問題の現場近くで検問している。

 ギルドから貰った許可証を見せた。

 兵士から同情の視線を貰う。

 俺だって行きたくて行くんじゃない。

 ダダを捏ねても始まらないので足早に検問を抜ける。

 フィオレラは馬ゴーレムに騎乗し、俺とビオンダさんは動く歩道魔法で進む。

 馬車とレシールさんは宿に置いてきた。




 あれだな、道の真ん中に居座る大蛇が見える。

 情報の通り頭の少ししたの部分に一対の翼があった。




 武器をフィオレラに預け魔力ゴーレムを連れて魔獣に一人で近寄る。


「話し合いたい。この通り武器も持ってない」


 両手を挙げ更に魔獣に近づく。

 魔力ゴーレムは保険だ。

 しめしめ、視線が魔力ゴーレムに行ってないという事は見えてない。


「今は暇だからお話しても良いよ」


 魔獣の声の調子は若い。


「まずはこの場所にいる目的を話して欲しい」

「ええっとねえ。僕は居たいからここに居る」


 なんだ初っ端からつまづいたな。答えになってない。

 それと返答の内容が少し子供っぽいような気がする。




「あなたはどのような存在なのですか?」

「僕は偉いんだぞ。唯一不二ゆいいつふになんだぞ」


 それを言うなら唯一無二だろう。

 なんか頭があまり良くないのかな。

 神様説が少し揺らいだな。




「仕事とかないのですか?」

「それは……いちいちうるさい奴だな」


 急に切れたぞ。




「どうしたらここから退いてくれますか?」

「僕に指図するな。もう飽きた。お前どっかに行っちゃえ」


 分析で魔獣を見るとなんと魔獣の体全体が魔力だ。

 風の塊を撃ってきたので飛びのいてかわす。




「むかーお前嫌い」


 もの凄くでかい火の玉を頭上に浮かべている。

 ピンチだしょうがない。

 魔力ゴーレムを魔獣の近くに移動させ転移刀を発動する。

 転移刀で魔獣の首を刎ねる。

 火の玉が霧散する。

 やったか。




「やったな僕完全に怒ったぞ」


 首は宙に浮いている。

 首と胴体が離れているのに焦った様子は無い。

 まさかのノーダーメージか。




「そこまでじゃ」


 まさかの神様登場。


「えーもっと遊びたいよー」

「駄目じゃ1592号。ほれ」


 神様が手を振ると魔獣が一瞬で消えうせる。




「ご無沙汰しております」


 混乱しているせいか少し頓珍漢な事を言ってしまったぞ。

 ご無沙汰しておりますは、しばらく相手を訪ねなかった場合の挨拶だ。

 神様に会いに行ける訳ないのに。




「よいよい、今回は助かったのう」

「あの魔獣は何だったのですか?」

「1592号はな。お主の分かりやすい言葉で言うと修正プログラムじゃ。今この星では魔力の発生に不具合が生じておる。それを修正するために作ったのだが逃げられての」


 もしかして魔獣の活性化もこれが原因かな。




「ところでどうやって此処が分かったのですか?」

「カメラじゃ。お主が封神と呼んでいるあやつから連絡が来ての」


 封神は気安く神様と連絡を取り合っているのか。

 封じられている意味があまりないような。




「ところで褒美は何が良いかの」


 戦闘力は大体間に合っている。そうだ。


「何か困った事があった時一回だけ助けてもらうのは」

「それでよいぞ。ではさらばじゃ」




 神様が消えると同時に馬ゴーレムに乗ったフィオレラとビオンダさんが全速力で駆けてくる。

 ビオンダさん早いな。

 フィオレラと同時についた。





「シロクさん大丈夫ですか」


 馬ゴーレムを飛び降り抱きついて来るフィオレラ。


「おちつけ。この通りなんともない」


 フィオレラの背中をポンポンと軽く叩いた。


「心配しました」

「心配かけたな。当分厄介事はないだろう」

「はぁはぁ貴君あれはどなただ!」


 さすが教会の人間だけあって神様の気配に敏感だ。


「あの方は神様です」

「やはりそうか。遠目だったが生きて目にする事ができるとは今日は何という幸運な日だ。何を話した!」

「逃げた魔獣を捕まえるのに協力したお礼で好きな時一回だけ助けてもらう事になりました」

「なんという悪運。正直羨ましい」


 本当に羨ましげなビオンダさん。この様に感情を剥き出しにするのは珍しいな。




 王都のギルドの中に入ると待っていたのかグランドマスターが声を掛けてきた。

 少しがっかりした様子。


「どうじゃった。やっぱり駄目か?」

「いえ神様に助けてもらってなんとかなりました」


 打って変わり明るい表情のグランドマスター。


「何と神様が。そうじゃったか。商業ギルドにもせっつかれて困っとったんじゃ」

「それでさすがにSランクは大丈夫ですよね」

「ああ問題ない。断言できるのじゃ」


 自信たっぷりだ。今回は大丈夫だろう。


「では明日アドラムに帰ります」




 品の良い酒場をグランドマスターに教わり。

 一人で情報収集に行ってみた。




 酒場はショットバーのような雰囲気で高そうな酒の瓶がずらりと並んでいる。

 カウンターの中に居るマスターの正面の席に座り酒を飲みながら噂話をマスターに聞いてみた。




 国境の戦争は回避される方向との事。どこも魔獣のスタンピート対応で忙しいらしい。

 もう何ヶ月か前にはその情報が出回ったと言っていた。

 辺境は情報が遅いという事がはっきり分かる。




 魔道具の話を振ってみた。

 発掘がアドラムで行われていると言う事を聞かされる。

 段々とばれていくな。最後には俺に行き着くのだろうな。




 次に貴族派の事を聞いてみた。

 ヤルヤード伯爵というのが貴族派をまとめているらしい。

 かなりお金が動いてるようでその原資がどこにあるのか謎だと噂になっている。




 宿に帰るとフィオレラに匂いを嗅がれ。

 お酒の匂いだけですねと言われた。

 例の魔道具の実戦データを戦闘の影響か激しく取ってしまった。




 帰りの馬車に揺られてつらつらと考える。

 魔力の不具合の影響は何時まで続くだろうか。

 修正はしているみたいだから段々と収まるとは思うけど。

 それと魔力の発生源はどこにあるのだろう。

 こんど封神に会った時に聞いてみたい。




 それと活性化の始まりの時期がどうも俺がこの星に来た時期と一致する。

 偶然だろうか。

 偶然ではなくとも俺に出来る事は高が知れている。

 特に神様に使命を言われた事も無いし気楽に行こう。




 それと今更だがフィオレラを弟子卒業にしたい。

 ついでにローレッタも卒業させるか。

 弟子卒業の時に師匠が何か贈る風習とかあるなら準備しなくては。

 向かいに座っているビオンダさんに聞いてみる。

 師匠と弟子の名前を入れた免許皆伝の証の腕輪を贈るのが一般的との事。

 材質はなんでも良いらしい。

 ここは奮発してミスリルで作ろう。

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