第5話 スキルもどき
数日間ゴブリン相手に狩りをする。
二匹同時でもあわてなくなった頃、新人らしいの六人組みパーティがゴブリン四匹を相手に戦っているのを見た。
射手二人剣士三人盾持ちのメイス装備が一人のパーティだ。
少し離れた所で観察する。
盾持ちがゴブリンの棍棒を危なげなく受け止めた。
お返しとばかりにメイスの一撃がゴブリンの頭を襲う。
ゴブリン相手に一撃だ凄い。
剣士の一人は棍棒を剣で受け流し隙が出来たところで斬りかかる。
こちらも一撃だ。
別の剣士は射手が矢で腹を打ち抜いたのも見て胴体に剣を突き入れる。
最後の剣士は腕を切り飛ばし返す刀で首を切り裂いた。
危なかったら、加勢しようと思ったのが恥ずかしい。
俺よりよっぽど強いじゃないか。
やっぱりある程度人数がいるパーティが羨ましい。
遠距離攻撃も欲しい気がする。
まだ三匹を相手にする自信はない。
それでも一匹の時は反撃をされずに完封できるようになった。
進歩していると思いたい。
雨が降ってきた。
先行きが見えない未来を暗示しているようだ。
早めに上がろう。
宿でじっくり対策を考える事にするか。
次の日になり空は昨日の雨が嘘のように晴れ渡っている。
今日は何か発見できそうな気がした。
とにかくヒントを掴まなければその為には観察だ。
一匹相手の時にじっくり観察しよう。
いつも通り森の浅いところでゴブリンを探す。
単独のゴブリンがきた。
そうだ、ゴーレムと徒手で格闘させてみよう。
走り寄って殴り掛かるゴブリンの腕を取る。
腕を折ろうとするが上手く行かない。
自然と体勢は力比べになっていた。
組み合って膠着する。
力はゴーレムの方が勝っている。
ジリジリとゴブリンの体勢を崩し、押し倒す事に成功した。
押し倒したゴブリンに馬乗りになり殴る。
ゴブリンはゴーレムの手に噛み付くが痛覚は無いので問題ない。
ふと考える。
ゴブリンの背丈はフィオレラより低い。
そして腕がフィオレラより細く見える。
それなのに力は成人男性並みにあると言う。
ファンタジー小説のゴブリンがそんな物なので、今まで気にならなかった。
しかし、明らかにおかしい。
魔石をもっているのだから当然魔力はあるはず。
魔力があるということは魔力で筋力を強化しているということだろう。
実は異世界に来てからすぐに、魔力を意識すると感じとれるようになっていた。
他人の魔力と使用イメージまで察知しようとすると、自分の魔力の異物感が酷くて吐き気に襲われる。
しょうがないゴブリンの魔力を観察してみようと思う。
吐き気をこらえて魔力を分析する。
まずゴーレムが全身に魔力を纏っていて、魔力のひもで自分に繋がっているのが判る。
肝心のゴブリンだけど、魔石から魔力が筋力を強化するイメージで全身に循環している。
ヒントは見つかったので俺がサクッと槍でゴブリンを倒す。
そしてフィオレラの魔力を見る。
当然動いていなくて心臓の当たりに綺麗に纏まっている。
「なんか掴めたから森の外で実験するぞ」
「さすがお師匠様です。成果が出たら、教えて下さい」
さっそく筋力強化をやってみる。
うん魔力がピクリとも動かない。
必死に魔力に向かって動け動けと念ずる。
ゴブリンの循環を思い出しながら動けとやっていると少し魔力が動いた。
その調子だ。
試行錯誤する事一時間。
ゴブリンに比べぎこちないが何とか成功した。
筋肉を強化するイメージを魔力に持たせる。
試しにゴーレムを片手で持ち上げる。
魔木で作ったゴーレムはかなり重いのに余裕で上がった。
「お師匠様すごい力ですね」
フィオレラがキラキラした目で見てくる。
「筋力強化モドキだ」
「でも詠唱してませんよね。無詠唱ですか?」
その一言で宿の女将さんから聞いたヤギウの伝説を思い出す。
四十以上のスキルを持ちスキルの同時発動をし、スキルの無詠唱もしたという。
女将さんも信じていないらしくて初代国王だから神格を持たす為の作り話だと言っていた。
俺も三百年前の話だから尾鰭がついたのだと思った。
もし、それが本当の話なら筋力強化モドキを訓練する事によって、スキルを獲得できるのではないかと言う展望が開ける。
まずは筋力強化モドキを安全な所で長時間やってみて魔力消費を量ることだ。
「明日は休みだ。ちなみにもしスキルを覚えたいなら何のスキルだ」
「スキルを覚えられるのであればゴーレム使いのスキルにしたいです。ゴーレム使いのスキルは狩りにも使えます。しかし一般的には物を運ぶ力です」
「そうか少し時間は掛かるかもしれない。方法を考えてみよう。今日は帰ろう」
「女将さん。ちょっと相談があるのですが」
「あらたまってなんだい水臭いね」
「明日、無料で一日薪割をするので先代のヤギウのコレクションを見せてもらえません?」
「薪割なんかしなくてもコレクションをみせてあげるのに義理堅いね。いいよ所詮レプリカや写本だから納得がいくまで見ておくれ」
部屋に帰り実験がうまく行くといいなと思いながら眠りについた。
「女将さん薪を割りたいのですが」
「斧と薪なら裏の小屋さ。本当に良いのかい」
「ええ、任せて下さい」
小屋には大人の腿の太さの薪これでもかと積まれていた。
立て掛けてある斧を取り裏庭の太い輪切りにされた丸太を見る。
丸太には幾つもの筋がありここで割れば良いのかと納得した。
薪割りは初めての経験だ。
まずは普通に割ってみる。
斧が思ったより重い。
立てた薪に斧を振り下ろす。
端っこを削っただけだ。
難しい。
斧が重たくて安定しないのも上手く割れない原因か。
今度は筋力強化モドキをしながら割ってみる。
イメージしながら動作するのは難しい。
何度か失敗し筋力強化モドキをしながらやっと割る事ができた。
力が増すと斧が安定する。
この調子だ。
機械になった気分で薪を割る。
お腹の鳴る音で薪割りを中断した。
スキル鑑定を試しに受けてみるか。
屋台でガレットに似た料理に舌鼓を打つ。
昼のハンターギルドは閑散としていて人もまばらだ。
スキル鑑定の窓口に行くとまた来たのかという顔をされる。
スキルが生えてますようにと祈りながら鑑定を受けた。
結果は駄目だった。
まだ一日目だ気長に行こう。
夕方まで筋力強化モドキで薪を割る。
精神的には非常に疲れた。
イメージを持続するのは難しい。
結局魔力切れにはならなかった。
筋力強化モドキはあまり魔力を消費しないらしい。
酷い筋肉痛にもならない良かった。
筋力強化モドキとゴーレム操作の同時発動は試してみる。
強化のとゴーレムの動作のイメージ同時なんてできるものか。
小一時間やった俺が馬鹿みたいだ。
気を取り直して約束のコレクションを見せてもらう。
コレクションは物置にしている部屋の大半を占拠している。
この中から興味あるものを探すのは骨が折れそうだ。
幾つか論文があったので試しに読んでみる。
もっとも正確なのはバクフ建国記であると。
探すか。
バクフ建国記は本棚に収まっていた。
背表紙で題名が分かったのは手間が省ける。
バクフ建国記を流し読む。
それによるとヤギウは二十五才で異世界に来て、一つしかなかったスキルが四年で四十以上になったと書いてある。
その後、王となり内政に尽力したとあった。
一ヶ月ちょっとでスキルが一つ増える計算だ。
朝になりいつもどおり森に行き素手のゴブリンを探す。
見つけた。
ゴーレムをいつでも操作できるよう後方に立たせてある少しだけ心強い。
向かってきたゴブリンに筋力強化モドキをして槍を突き出す。
強化された突きは普段の倍以上のスピードでゴブリンに迫る。
一撃だ。
筋力強化モドキとても使える。
調子に乗っていたのかもしれない。
次に見つかった棍棒持ちと戦闘に入る。
その時フィオレラが声を上げた。
「お師匠様! 新たに二匹ゴブリンが向かってきます!」
三匹はまずい。
必死になり強化した力で槍をなぎ払う。
くそっ、よけられた。
突きを入れるが今度もよけられる。
槍の柄で頭を殴ろうとするが棍棒で防がれた。
だめだ。
新たな二匹のゴブリンが目前に迫っている。
やけくそだ。
筋力強化モドキの魔力を最大限循環させる。
限界まで強化された筋力で突き出された槍はゴブリンを貫通した。
後から来たゴブリンがびっくりして足が止まった。
すかさず駆け寄り連続して突きを見舞う。
今度も一撃だ。
最後のゴブリンが我に返ったように動き出すが遅い。
首に切りつけこのゴブリンも一撃で倒せた。
「はあはあ、危なかった」
「もの凄い速さで動いてましたね」
「もう一度やれと言われても出来ないかもしれない。帰ろう」
宿に帰り考えた。
筋力強化モドキを試しながらゴブリン狩は危険だ。
安全な場所で試すにはどうするべきか。
お金を稼げて尚且つ筋力強化モドキが出来る環境が良い。
肉体労働だ。
それなら土方だろう。
建築ギルドで仕事を受けるか。
そうしよう。
フィオレラと宿の一階の食堂で夕飯を摂りながら話し合う。
「とりあえずハンターをやってみる一ヶ月にはまだある。それでも明日からの一ヶ月は建築ギルドで仕事を受けようと思う」
「ええ、いいですよ。どんな仕事を受けるんですか?」
「ゴーレムを使わない肉体労働だ」
「私は又雑務をやりたいです」
前やった雑務が気に入っていたのか反応はすこぶる良い。
「とりあえずブレンドン親方の仕事を当たってみて駄目なら他の現場を考えよう」
「いいですね」
フィオレラの合意も取れたので明日から肉体労働だ。
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