Chapter15.対面~神の洞窟~
「なんなんだよ、アイツはっ!!」
“夜”と遭遇してから数時間後、僕たちは一年中雪が降り続いているという街……ホワイヴへとやって来た。
そして宿を取り、今は一つの部屋で話をしている。話題はもちろん、彼……“夜”のことだ。
「何か……様子がおかしかったですネ……」
レンの怒声に、深雪もこくりと頷いた。
「おかしいというか……雰囲気そのものが違ってたな」
複雑そうな表情でソレイユが言う。……違う、それだけじゃない。
「彼は……彼の瞳には、狂気があった……」
ぽつり、と僕が呟くと、他のみんなが一斉にこちらを見てきた。みんなは僕ほどの至近距離で彼の瞳を見ていないからだ。
空を映したような綺麗な青い瞳は、なぜか血のような赤へと変化していた。
「狂気……って、あの夜にか?」
「……夜に……狂気なんて……」
イビアとリウが戸惑ったような反応をする。
当然だ。彼らの知ってる“夜”は、狂気なんて宿すような性格ではないのだから。
みんなが彼を思い黙ってしまう。
だが、そんな沈黙を破ったのは、アレキだった。
「夜は夜なりに……苦しんでいるんだろうな……」
「……オレたちは……あいつに何か出来るのか……?」
難しい顔をした彼の言葉を受け、不安げにカイゼルが拳を握り締めた。
「だいじょうぶだよ」
ふと、子ども特有の高い声が、はっきりと部屋に響く。ルーだ。
その真っ直ぐな瞳で、彼は僕たちを見回した。
「救えるよ。救わなくちゃ。ぼくたちで、救ってあげるんだ。
彼を……夜お兄ちゃんを」
「……そうですネ。彼が何と言おうと……話を聞いて、救ってあげなくては。……私たちは、仲間なのですから」
【太陽神】の言葉に深雪がふわりと微笑むと、気を取り直したらしい他のみんなもしっかりと頷いた。
「……で? この後どうするんだい?」
目的は決まったけれど、今から具体的にどうするかはまだ決めていない。そう言って桜爛がレンに尋ねた。
「そうだな……」
「……“神の洞窟”へ行きましょう」
レンが悩んでいると、リウが凛とした声音で言った。
「……いいえ、正確には、私たちはそこへ行かなければならない。待ってる人がいるもの」
「……予言、か?」
強い意思を宿した瞳で語る【予言者】に、レンが問う。
「うん。予言であり……『預言』よ」
「……なら、決まりだな。まずは“神の洞窟”へ行く。いいな?」
有無を言わせないような声で、レンは僕たちに確認を取る。それに頷き、出発は明日の朝となった。
+++
「ていうか、“神の洞窟”ってどこにあるんだ?」
「そもそも何なんです? それは」
解散して各自の部屋へ向かう途中、イビアと深雪が首を傾げた。
「場所は……
「何か……って聞かれたらあれか。神さまを奉ってる洞窟、かな?」
僕とソレイユがそれに答えるが、噂の範囲を超えない場所だから僕たちもよくわからなかったりする。
桜華というのは、夜たちの世界でいう中華風の街で、王都ロマネーナ、港町カントスアに続くこのローズライン大陸で三番目に広い街だ。
様々な人種が暮らすからか、王都ほどではないけど【神】に縁の場所が多いという。
だから“神の洞窟”と呼ばれるその場所が、桜華にあると僕たちは考えている。
「へえ。でも行ってどうするんだろうな」
「リウさんは『待っている人がいる』と仰っていましたが……」
相変わらず首を傾げるイビアと深雪に、僕とソレイユもそれ以上はわからない、と首を振る。
「まあ、あれだ。行けばわかるってやつだろうな」
ソレイユの言葉に頷きながら、僕は夜のことを想っていた。僕たちが向かう先に、君がいればいいと願いながら。
……窓の外、降り注ぐ真っ白な雪が、僕の思考を塗り潰していくようだった。
+++
そして、翌日。僕たちは桜華に向かって歩き出した。
途中で魔物の群れに襲われはしたけれど、先日ほど数は多くない上にこちらも大人数だから大したことはなく、ホワイヴから半日ほど歩けばその街に着いた。
「なんていうか……中華な街ですネ」
「夜がいたら喜んでくれたかな……」
きらびやかな明かりに囲まれた街並みを見回して、深雪がぽつりと呟いたのに反応しながら、僕たちは先を歩くレンたちに着いていく。
「うーん、懐かしいねぇ桜華!」
「ああ、桜爛はここの出身だっけ?」
桜爛の言葉に、【予言者】として僕たち以外のことも色々と知っているのかリウが問いかける。彼女はどうやらこの街の出身らしい。
「そうだよ。……そういやアンタたち、“神の洞窟”の場所、知ってるのかい?」
不意に彼女がレンとリウを見て尋ねた。
「さすがに知らないから、誰かに聞こうかと思ってたんだけど……」
「だったらアタシに任せな! 昔行ったことがあるんだ」
不安げなリウに向かって頼もしげに笑う桜爛を、カイゼルが怪訝そうな顔で見る。
「……何かやらかしに行ったのか」
「しっつれいだねぇ! ちょっと探検しに行っただけだよ!」
カイゼルの言葉に心外だ、とでも言うように桜爛は声を荒げる。深雪とリウが彼女を宥めながら、僕たちはその場所へと案内してもらった。
そうして辿り着いたのは、桜華の奥にある鬱蒼とした森の中。その更に奥に、“神の洞窟”はあった。
「何か……見た感じ普通の洞窟だな……」
「本当に待ってる奴なんかいるのか?」
中に入り、辺りを見回すイビアとカイゼルが、リウに問う。
「いるわ」
そんな彼らにきっぱりと答えて、リウは洞窟の奥へ進む。僕たちも慌てて後を追いながら、改めて周りを見た。
洞窟は奥へ進めば進むほど、綺麗な蒼のグラデーションがかかり、どこか幻想的だった。……まるで君の髪のようだ、と、僕はそっと微笑んだ。
「ここで行き止まりか」
「……誰もいませんネ」
【予言者】に連れられ到着した洞窟の最奥には、小さな祭壇があるだけで他には誰もいなかった。
「おいリウ、一体どこに……」
アレキが言いかけたその時、凜とした声音が洞窟内に響いた。
『待っていたよ。“
それに僕たちが振り向くと、祭壇の上で空色をした髪の小さな少女が、微笑んでいた。
「「「アズール様……!」」」
僕とソレイユは驚きから、リウは安堵から、声が重なる。
「アズールさま、って……」
「嘘だろ……? こんな子供が!?」
アレキとイビアも驚きの声を上げる。声には出さないけれど、カイゼルと桜爛も驚いているようだ。レンは知っていたようで、ただ黙って事の成り行きを見守っている。
深雪や黒翼、ルーは当然ながら何かわかっていないようで、不思議そうな顔をしていたが……。
……そこにいたのは、このローズラインの【創造神】にして【守護神】の、アズール・ローゼリア様だった。
Chapter15.Fin.
Next⇒
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます