第25話 神様のいない物語
ハムの家に戻り、事の次第を伝える。
「あら、意識を取り戻したのね」
「そんな病人みたいな言い方……。まあ、病的におかしかったから元に戻ったのなら何よりです。それでセムのところに向かえば良いんですね」
「ええ」
「じゃあちょっとの間、この子達の世話ヨロシク。餌をあげる時間だけ間違えなきゃオッケーだからね」
そう言って出掛けていった。
「二人とも嬉しそうッス」
「なんだかんだで心配していたからね。ただ、これが今生の別れにならなきゃいいんだけど」
「世界、滅んじゃうんスか?」
「わからない……物語がすでに歪んでいるから、何が起きてもおかしくないんだ。おそらく『ティンカー』はノアの予言が失われたことで、それによって引き起こされる事態はまだ未定だ。それよりも、どうして予言が失われたのか、それを解決しないことには物語を正しく導くことはできないな」
「やっぱりノアちゃんボケ老人説ッスか。ショタジジイって需要あるんスかね」
「……需要の話はわからないけど。いや、ノアの話を聞く限りその可能性は低いと思うけどな。そうだな、神様にでも話を聞けたら何かわかるかもな」
「とんでもねぇあたしゃ神様だよ」
「お直りください神様」
「はーい……」
右手を上げて全知全能のポーズのまま、神様はマナちゃんに戻っていった。
「例えば神様が何らかの意図があって予言をなかったことにした、とかが可能性としてはあり得るのかな」
「神様が『待った、やっぱ今のナシ』とか言うんスか。この世界ドジっ子多すぎるッス」
「神話の神様なんて理不尽の塊だし、まあそんなものかもね」
「ところで明日に備えて何か準備するんスか?」
「いや、特に何もない、かな。この世界を抜け出す手段はバッチリ用意してあるし、本当に洪水が起こったらこいつで物語から抜け出すだけだ」
そう言ってわたしは手のひらサイズの本を一冊取り出す。メモ帳代わりとしても使える中身は白紙の本であり、間には栞が挟まれている。
物語の中に入り込むと勝手に荷物の中に紛れ込まれていて、この栞を抜き取ることで物語から抜け出して元の世界、つまりあの書斎に戻ることができる。実は色々と高性能らしいのだが、使い方がよくわかっていないので用途は今の所一つしか無い。
「全ては明日だ。食事も早めに済ませて、明日に備えよう」
「マナちゃん達も最後の晩餐ッスね」
「いやね、最後の晩餐って新訳聖書の内容だから、本来ここで使うのは間違ってるんだよな。さっきノアが言ったとき突っ込もうかどうか迷ったんだけど」
「シショーもいつも通りで安心したッス」
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