【追加エピソード】不思議なお年玉!?《第3.5話・前編》

――時系列しては、第1章第3話の続きとなるエピソードです。

――ご愛読いただいている読者の皆様に感謝の気持ちを込めて、令和3年元日の昼から夕方まで使って書き上げました。



 元日の朝に姉と二人で初詣に行ってきた。

 ボクは普段着の上にモフモフの襟が付いたコートを着ていったのだけれど、姉は晴れやかな色の振り袖姿だ。

 さすがは名門星埜守ほしのもり高校において、生徒会長を務めるだけのことはある。近所の神社に行くのにも、常人とは気合いの入り方が違うのだ。


 家に帰っても、すぐには脱がない。ソファーに並んで座り、お正月のテレビ番組を二人でのんびりと見ているときも、凜とした姿勢を崩さない。

 先に音を上げたのはボクの方だった。部屋着に着替えるために自室へ上がると、少し経ってから、ノックの音がした。


しょうちゃんにお願いがあるの!」


 姉のお願いとは、着物の帯をグイッと引かれて、「あれぇ~」というのをやられてみたいということだった。

 ボクにはその状況はよく分からなかったのだけれど、姉の言うとおりにやってみたら、なぜか二人でソファーの上に倒れ込んでしまうというハプニングに見舞われた。



 これは、その後で起きた出来事――

 


 玄関のチャイムが鳴り、ババとママが久し振りに帰って来た。   

 いつもは忙しい探偵事務所も、正月は休みをとっているらしい。


「ほら祥太、お年玉をあげよう」

「わぁ、ありがとうパパ!」

「無駄遣いをするんじゃないぞ?」

「うん。分かっているよ。半分は貯金して、万が一のときの備えにするよ!」

「よーし、それでこそ夢見沢家の家督を継ぐ者だ! えらいぞー!」


 白い歯をキラリと光らせ、ボクの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてくれる。

 ボクはそんな父の男らしさが大好きだ。


「はい、ママからもお年玉よ」

「わぁ、ありがとうママ!」

「お金は権力チカラよ! ちゃんと計画的に使い道を決めるのよ?」

「うん、わかっているよ! 美術部で使う絵の具が減ってきたから買い足すのと、新しく画材を買わなくちゃいけないけど、半分は貯金して、万が一のときの備えにするよ!」

「なら最高級品をきちんと選ぶこと! いい? 妥協して二番手を選んだりしてはダメよ?」

「う、うん……じゃあ今度、顧問の先生に訊いてみようかな。水彩絵の具のトップブランドはどれですかって……」

「うふふ、そうしなさい」


 満足そうに笑みを浮かべ、母のあたたかな手がボクの頬に触れる。

 ボクはそんな母のやさしさが大好きだ。


 リビングダイニングで、久し振りの親子の話に盛り上がっていると、喜多がお茶を運んできた。


「あの……ショウタお坊ちゃまへ、私からもお年玉をお渡ししても?」

「ええっ!? 喜多さんもくれるの?」


 エプロン姿の喜多は、ポケットから和紙で包まれたものを出した。

 お年玉のぽち袋というより、どちらかといえば結婚式などのご祝儀袋みたいな感じの物だった。


「なんだかそれは気が引けちゃうなぁ。うちで働いてもらっている喜多さんにお年玉をもらうなんて……。ねえママ?」

「そうねえ。何か下心が見え隠れするわねえ」

「下心など、など、など……そのようなものは決してございません!」

「ふーん……」

「奥さま、お年玉の由来は歳神としがみさまからのお下がりで頂く玉のような形のお餅――であることをご存じでしょうか? つまり、中身はお金である必要はないのでございます」

「お金ではないの?」

「あ、なーんだ。お金じゃないんだったら有り難く受け取るよ! ありがとう喜多さん!」

「うふふ。中身は後で、お一人になってからお開けくださいね?」


 分厚いご祝儀袋のような物を受け取るとき、喜多は両手でボクの手をギュッと握り、にっこりと笑った。


「ははは、良かったな祥太! 皆からお年玉をもらえて! ああそうだ、そういうことなら志乃吹しのぶにもお年玉を用意しておくべきだったかな?」

「はっ! だだだ、旦那さま! 奥さまの前でそのようなことは……」

「ん? そのようなことって?」

「い、いえ……これは独り言でございます!!」


 ちなみに『志乃吹』とは家政婦の喜多の下の名前。敏腕刑事だった父は、17年前に起きたある事件で、当時15歳の喜多志乃吹と運命的な出会いをしたらしい。


 喜多は、ものすごく慌てた様子でキッチンに下がっていくが、途中で何かに足を絡ませて、どんがらガッチャンと派手に転んでしまった。 


「ふうー、志乃吹は相変わらずドジっ子だなぁー。あれで家政婦の仕事は務まっているのだろうか? ――んっ??」


 廊下側のドアにすき間が空いていることに気付いた父は、何者かがじっと中を覗いていたことにようやく気付いたようだ。


「カエデちゃーん、会いたかったよぉぉぉ――――ぐはっ!」


 普段着に着替え終わった姉は、抱きつこうとする父を蹴り飛ばした。


「あらカエデちゃん、今年もよろしくね」

「パパ、ママ、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします」

「うわーん、カエデちゃん振り袖脱いじゃったのぉー? パパも見たかったなぁー、カエデちゃんの着物姿をー!」

「だから早く着替えてきたのよ! もーっ、ちょっと離れなさいよーっ!」


 逃げる姉と抱きつこうとする父の攻防は、その後もしばらく続くのだった。



       ――――【後編へ続く】――――

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