ようこそ!お姉ちゃん温泉へ(3)

 テレビでは腰にタオルを巻いたイケメン俳優とお笑いタレントの二人が温泉に入っていた。秩父の山奥にある秘境温泉というだけあって、まるで川をせき止めて作られたような野趣豊かな露天風呂だった。

 『ふう~、極楽極楽』とまるで年配者のような声を漏らすイケメン俳優に、的確なツッコミを入れるお笑いタレント。男二人で入る露天風呂もなかなか良い雰囲気だ。


 ところが、のんびりムードから一転して、突然別のカメラに切り替わる。


 白いビニルシート生地で作られた簡易テントが小さく映し出され、その後ろから強烈なライトが当てられる。

 女の人の短い悲鳴が聞こえたと思ったら、カメラは簡易テントにズームイン!

 そこには白いスクリーンに投影された影絵のように、くっきりと女子アナのお姉さんのシルエットが映し出されていた。

 お姉さんはその場でかがみ込んでしまい、おいおいと泣きじゃくる。

 慌てるイケメン俳優とお笑いタレント、そして撮影スタッフ。

 画面が上下左右に大きくぶれて、コマーシャルに突入した。


 テレビのスピーカーからは地元では有名なお饅頭のテーマソングが流れているけれど、ボクの耳には入らない。ボクの小さな胸にズキンと痛みが走っていた。


「ねえ、これってやっぱり台本通りのやらせなんだよね? そうじゃないとあまりにも女子アナのお姉さんが可哀想だよね?」


 ボクは助けを求めるように姉に同意を求める。でも、キッチンにいるものだと思っていた姉の姿はどこにもなかった。二階の部屋に戻っちゃったのかな?


 できればこのままテレビを消してしまいたい。

 でも、ボクが現実から逃げたところで女子アナのお姉さんが救われることはない。


 ならば……最後まで見届けよう!



 コマーシャルが終わると、女子アナのお姉さんは少し落ち着きを取り戻していて、簡易テントの隙間から顔を覗かせる余裕ができたみたい。でも、今度は正面から当てられるライトが強すぎると抗議するので、照明担当がしぶしぶという感じで通常の明るさにもどしている。


 この番組は撮影スタッフもよく画面に登場するんだ。さすがローカル局が制作している番組という感じがして、ボクはこういうところは結構気に入っている。


 お姉さんはバスタオルを身体に巻いて大事なところを隠している。普通の番組ならばその下に水着を着ていたりすると思う。でもこの番組に限ってはやはりという感じらしくて、『うーっ』とか唸りながらお姉さんはものすごくビクビクしている。

 ここで『※本人の了承のもと撮影しています』というテロップが流れたんだけれど、これは何かの対策かな?


 それから何とかイケメン俳優に説得されて、温泉に足を浸けるお姉さん。

 すると、それがとても気持ちよかったらしくて、そのままチャプンと肩まで入ってしまった。

 まだ緊張した面持ちながらも、少しずつリラックスした表情に変わっていくお姉さん。

 イケメン俳優もお笑いタレントも、そして撮影スタッフもほっとした様子だ。


 その様子を見たボクは、

「温泉って、やっぱいいなぁ……」と思わず声に出していたんだ。



「しょー・う・ちゃんっ!」



 突然背後から姉の声が聞こえたかと思うと、ボクの頭頂部がふわふわのプリンに包まれて、薔薇の花のような香りが一面に広がった。


 一瞬、自分がどうなっているのかが分からなかったけれど、どうやら姉はソファーの背もたれ越しに身を乗り出し、ボクに背後から抱きついてきているようだった。


 結果として姉の大きくて柔らかい胸がボクの頭の上に乗っかっている訳であり……状況が分かったことで、より動揺してしまったボクはお花畑に精神がトリップ寸前だ。


「ねえ、しょうちゃんは温泉に行きたいの? それともぉー、女の子とお風呂に入ってみたいのかな?」


「ひうっ」


 耳に熱い吐息を吹きかけられて、思わず変な声を上げてしまうボク。

 姉の白くて細い指先が、ボクの頬をするりと撫でていく。


「ボ、ボクは……」


 ――何て答えればいいんだろうか。

 

 温泉に入りたいのは本当だし……それに……

 女の子と……


 ――ッ!!


 その瞬間、ボクの脳裏に浮かんだ光景は言葉にすることは許されないものだった。

 

 そんなボクの戸惑いに気付いてくれたのだろうか。姉の細い指先はボクの唇にゆっくりと触れ、それ以上言葉を発することを禁じた。


「入ろっか、温泉!」


「……えっ」


「お姉ちゃんと一緒に、温泉に入ろっ!」


 驚いたボクは後ろを振り向き姉を見上げた。

 姉はまるで大きな胸の谷間を見せつけるような前屈みの姿勢になっていた。 

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