うまれかわり

約束を取り付けると待ち合わせ場所は向こうが指定してきたコーヒー屋だった。


店内に目をやるとすこし早かったようでまだ作者は訪れてないようだ。

店内にはまだお客さんがいなかった。

中に入り待ち合わせである事を伝えると、奥のテーブル席に案内された。


そこには女の子が一人で座っていた。

顔立ちや服装から推測するに中学生くらいだろうか、自分が普通だったら待ち合わせする事などない年代の子がコーヒーと小説片手に小さく存在している。


「四ツ谷さんですか?」


「はい、あなたはもしかして真珠星の?」


「そうです。作者の天霧ツユ子です。お待ちしていました」


この絵面はまずいんじゃないか周りにあらぬ誤解を与えてしまいそうだ。それにしても店員はよくもまぁ疑わずに席に案内したものだ。自分が店員だったら好奇の目を向けて聞く耳たててしまうだろう。

実に優秀な店員だ。

呼び鈴を二回鳴らしホットコーヒーを頼む。

学生かもしれない。そんな考えは微かにあったがまさかこんな幼い子だとは予想もしていなかった。


「それでお話しと言うのは?小説の事ですよね?」


「実は聞きたい事があって」


「なんでしょうか?」


「なんで秋田憂のあんな話を書いたのか、よかったら聞かせていただきたくて」


「ずいぶんざっくりした質問ですね。好きだからです」


「秋田憂さんが?」


「はい!」


注文したコーヒーを受け取るとついでに灰皿を頼んだ。


「本当に聞きたいことはそこじゃないんじゃないですか?」


「いやまぁそうなんだ。そう言ってくれると話が早いんだが、まぁ…」


言葉を詰まらせるのは自分自身馬鹿げた事を子供に聞こうとしているのが非常に滑稽だから。

こんな子供の絵空事に何を真剣に向き合っているのか。

馬鹿らしい。


「なんで、君はこれから起こる事を知っているの?」


タバコを吸い終えると質問を口にした。


「四ツ谷さんは生まれ変わり、輪廻転成とか信じますか?」


「心から信じてるわけじゃないけどあれば素敵だなと思うくらいには信じてる」


「予言は信じますか?」


「生まれ変わりと同じくらいには」


質問する側される側、いつの間にか立場が逆転している。

主導権を取り戻す。


「それが関係しているの?」


「信じてくれるのですか?」


「信じるかどうかは別として、話を聞きに来ているからね。馬鹿らしいって帰るような事をするつもりはないよ」


嘘だった。今すぐにでも帰ってしまいたい。


「実は私何回も生まれ変わっているんです」


「それで?」


冷静な大人を装っている。こんなにも無益な時間探してもなかなか見つからない。

子供の考えた空想の話に付き合ってやるなんて。


「予言を信じるとして、明日好きな人が死にます!って言われたらどうしますか?避けようがない未来を知らされてどうしますか?」


「んー変えたいって思うんじゃないかな?」


「そうですよね。だから今回はこういった手段を取ったんです」


「いまいち話の筋が見えてこないんだけど、君はどうしてあの小説を書けたんだ?未来がわかるのか?」


「はい。だから変えたいんです」


「生まれ変わりどうこう言ってたのは?」


「私、生まれ変わる前の記憶があるんです。生まれ変わりって聞くと、前世って過去だという固定概念があると思うのですが、いつも決まってこの時代なんです。」


「それだとこの時代に君が何人かいるみたいな言いようだけど。」


「そうなんです。存在してるはずなのになぜか会えないんです。だから記憶を頼りにあの小説を書きました。」


「そこまでして何を変えたいと思ってるの?」


「秋田憂に死んでほしくない…」


「どうして?」


「好きだから。」


確かに自分が好きな人が死ぬのを何度も経験するのは嫌なものだろう。


「信じてくれますか?」


「にわかには信じがたい。ただ話が聞けて良かったよ。世の中にもう少しファンタジーが溢れてたら素敵だなと思っていたから。」


コーヒーを飲み干す。


「なにかまた聞きたい事があったらまた聞きにくるよ!大人は忙しいから」


そう言ってレシートを手にレジに向かう。


「最後の日は平成最後の誕生日です!!」


その声を背中で受けながらも適当な仕草で振り向かず別れをかわす。


どこがで、そんな話が存在したらなって気持ちが多少湧いてきてはいたが大人な自分がそんな感情を抑え込む。


子供はみんな不思議な世界を持っている。

次第に常識や道徳、マナーやら世間体などつまらないものを身につけ普遍的なつまらない大人になっていくのだ。


あの子もそのうち、生まれ変わる前の記憶がある!なんて公言することはなくなるだろう。

それが事実かどうかは別として。


まだまだ子供だな、と普段思うことが多いのだが子供と接するとちゃんと大人になっているんだななんて思い知らされる。


それが誇らしいようでなんだかどこかさみしくもあった。

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