センパイと約束

校内でセンパイとがっつり話す機会はほとんどなかった。たまに見かけると笑顔を見せて手を振ってくるくらいだ。

あのオタクモードのセンパイは校内では見ることができない。私とセンパイだけの秘密だ。あ、弟の柴田くんも知っているのか。


柴田くんと言えばあの日以降もっぱら他人行儀だ。自分が付いた嘘に後ろめたさを感じているのだろうか。もともとの距離感に戻ったのか。

初恋になりかけた私の気持ちをなんだと思っているんだ。

もし、後ろめたさを感じているならばもう少しその罪に悩まされていれば良い。


甘いもの、何を食べに行こう。どこに食べに行こう。センパイの好みも知らないし、その辺でふらっと入った店でセンパイのオタクモードをセンパイのクラスメイトに目撃されるような事はあってはならない。


後から知ったのだが、下級生男子はもちろん年上に憧れがちな年代なのは承知なのだが、我が校のアイドル的存在なのだ。


私だけが知っているアイドルの秘密。

ぞわぞわする。弱みを握っている。学園のアイドルの。

我が校の新聞部にリークしてみたい気持ちが少しある。証拠の写真もある。

芸能人のスキャンダルを取り上げる雑誌記者達はこんな気分なんだろうな。

と、妄想にふける。


そんな、学園のアイドルと対談するのだから甘いものを食べに行くだけの、抽象的な約束。

私の頭を悩ませる。


そんな日々を過ごす中約束の日を前にセンパイからメッセージが届く



「やったよ!二葉ちゃん二次審査まで通ったよ」

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