彼女の手の上

振り返るとやはり声の主は柴田ではなかった。いや、柴田ではあるのだけど柴田くんではなかった。


「やっほー!びっくりしたよ!制服なんだねー!!私も学校に用事があったから双子コーデじゃん!」


と、キャッキャしてるのは柴田くんの姉、柴田奈津さんである。


状況の把握に思考回路をめちゃくちゃ働かせてみたが、私のスペックでは理解しきれない事を理解したのか


「なんで?」


なにに対してなのかわからない全く具体的ではない質問をしてしまったが、正解だった。

相手も何に対してのなんで?なのかわからずになのか、喋りたがりなのかわからないが、べらべらと舌が動き音を発する。

心地よいテンポで私の耳に入ってきた情報を必要なもの以外削ぎ落とす作業が多かったのでおそらく後者である。


まとめる。

同級生の中で勝手に膨らんでしまったイメージのせいで、流星風流が好きと言えなくなってしまった彼女は下級生、つまり弟の同級生の中で流星風流好きを探したらしい。

ライブに行きたいのだが、弟と行くのもなんだか味気ないのでその相手を、探していた。

男子なら声をかければ付い来そうな奴は何人かいたが余計な心配もうみたくないので同性を探していたらしい。若干見た目だけは良い弟の誘いなら下級生女子捕まえられそうな気がしていたらしい。

そして、勝手に作った奈津さんの我が校でアイドルグループを作るならの候補にいた私の名が柴田くんの口から出たので、めちゃくちゃ頼んで奈津さんプロデュースアイドルの一員だった私といわゆる双子コーデができた事と、ライブ目前でテンションが爆アゲってやつらしい。


まだいらない情報を削ぐ作業が追いついてないが状況を把握した。


私は柴田くん若干良い見た目と淡い恋心。恋に恋する年代だからしかたない。そんな柴田くんの目論見、否、柴田くんを操っていた柴田奈津さんの計画に十中八九はまって今、この場所にいるのだ。

彼女の想定外だったことは私が制服でのこのこ現れた事くらいなんだろう。


失恋した気分である。アイドルのライブどころではない。さささのさっとここじゃないどこかに逃げてしまいたいのだが、そんなわけにはいかない。奈津さんの名に恥じない熱量から私は逃げ出せずにいた。


不意に浮かんだワード。


魔王からは逃げ出せない


彼女の支配下でこの後の時間を過ごすのだろう。

そして、不安になる。

こんな綺麗な先輩とアイドルライブに制服で行ってしまったら男性からなにかされるんじゃないかと。

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