《ちゅうに探偵 赤名メイ⑨》


「クソッ、マジか!」


俺が慌てて奥様に近寄ると、赤名探偵は制止した。


「触るな。私とブラックサンダーが診る」


近くまで歩み寄り、ブラックサンダーこと黒柳は奥様の首筋に触れた。数秒触れていた指は、すぐに離れた。


「・・・残念だが、死んでいる」


なんてこった・・・。


俺は冷や汗が止まらなかった。初めて人が死んでいる現場に遭遇してしまったという事と、依頼人が死んでしまったという事の2つの理由で、俺の体は硬直していた。が、突如訪れた背後の違和感に、思わず体が振り返った。


・・・ん・・・何だ?


しかし視界にはどこも気になるところはなく、廊下のカーテンが風になびいていた。


「どうした、ブルーマウンテン?」


「あ、いや、何でもありません」


頭を掻きながら振り返ると、赤名探偵とブラックサンダーこと黒柳、そしてジャスティスこと白井が、白い手袋をはめていた。


「私ら3人は現場の保存と、できる限りの現場検証をする。お前たち3人は警察に連絡と、屋敷の中にいる人たち全てにこの事を知らせてくれ」


そう言うと、赤名探偵たちは再び遺体に対峙した。


「それじゃ、私が警察に連絡しますので、2人は屋敷内にいる人たちに声を掛けてきてください。この部屋に入らないように、と、不用意に出歩かないようにと」


ピンクガーデンこと桃園が携帯電話を取り出したところで、アーサーこと藍沢と俺は顔を見合わせて頷いた。


できれば桃園さんと回りたかったんだが・・・、流石に不謹慎か。


俺は本心を押し殺し、アーサーこと藍沢と共に屋敷中を走り回った。この屋敷は広い。メイドの方々、庭師、運転手。全てに伝えて回るには走っても15分以上は掛かるだろう。一通り回り再び大広間に着くと、その最中、俺たちはとある人物に遭遇していない事に気が付いた。


「メイド長と執事の人はどこだ・・・?」


「そういえば見てないね」


「急いで探すぞ!」


と走り出した瞬間、奥の扉が開き、メイド長が両手持ちの銀色のトレーを持って現れた。


「あら、何かあったんですか?」


俺は思わず頭から滑り転んだ。ズサーッという擬音がお似合いのスライディングを見せてしまい、俺が起き上がる間に、アーサーこと藍沢はキョトンとしているメイド長に淡々と奥様が何者かに殺されていた事を説明をしていた。みるみる顔色が変わるメイド長。


「そんな・・・奥様!!!」


両手に持っていた銀色のトレーをテーブルに置くと、彼女は走って行ってしまった。


「現場には入らないでくださいよー!?」


俺の言葉は、大広間内に響いた。アーサーこと藍沢と顔を見合わせるが、彼は至って冷静だった。こういう状況は慣れているのか、小学生なのに妙に大人びている彼には何故か大人として接しなければいけないような雰囲気が漂っていた。


「後は執事の方か・・・」


『私をお探しかな?』


タイミング良いなぁ、おい。


執事の方はメイド長とは逆の方向の階段に姿を現した。ゆっくりと階段を降り、相変わらず背筋は伸ばしたままだ。俺は先程アーサーこと藍沢がメイド長に説明した内容を執事の方にも伝えた。


「落ち着いて聞いてください。・・・奥様が何者かに殺されました」


「・・・何と!」


やはりここは大人の反応だった。先程のメイド長はここで走り去ってしまったが、彼は自分の感情を飲み込み、ちゃんと聞いてくれる姿勢を作ってくれた。


「いったいどちらで?」


「奥様の自室です」


「発覚はいつ?」


「つい20分程前です」


「警察には?」


「既にうちの者が連絡済みです」


彼は、そうですか・・・。と言ったっきり言葉を噤(つぐ)んだ。目は悲しそうに細くなり、小さく溜め息を吐いた。


「ひとまず、あまり出歩かないようにして、後は警察の指示に従ってください」


執事の方は無言で立ち去ってしまった。その立ち去る姿には、長年執事をしていた事だけあり、寸分狂わずピシッとしたままだった。


なぁんかここの人達は極端だなぁ・・・。


俺がそんな事を思っていると、パトカーのサイレンの音が、少し遠くから聞こえてきた。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑩》へ続く。

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