第8話 夜霧

夜霧よ

そなたは魔性の女に似る

そなたの前では何もかもが幻想的に煌めき

暗闇さえもその陰鬱さを引っ込める

月光の美しささえ覆い隠し

時には薄汚れた街灯さえ

月と見まごうばかりの代物に化かしてしまう


しかし夜霧よ

そなたは魔性の女に似ているのだ

そなたの内にある陰鬱な影は覆い隠され

血腥き内側の生は息を潜める

そして何よりも美しいそなたは

一晩のうちに跡形もなく我々の前から姿を消し

ただ記憶の盲目の内に

その妖艶な美しさのみを凄惨にも刻み付け

我々を昼となく夜となく

欲望の最果てへ導かんと苦しめ続ける

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る