第291話、ふと山精霊が気になり通訳して貰う錬金術師

「ただいま」

「家精霊さん、ただいまー」

『『『『『キャー!』』』』』


家に帰ったら迎えてくれた家精霊に皆で応え、荷車を降りて仮面とローブを手渡す。

メイラも同じ様に家精精霊に預け、山精霊達は何体か手を振って庭を去って行った。

多分あの子達は、普段は街中でうろちょろしてる子なんだろう。

ただ今日の儀式の応援の為に来て、パックに頼まれたから勢いで付いて来たんだと思う。


とはいえ10体も20体も精霊の護衛が必要な事態なんて、滅多に無いんだけどなぁ。

パックはちょっと心配性なのかもしれない。そもそも私は山精霊より一応強いんだよ?

まあ今のこの子達が全員一つになったら、ちょっと勝てるか怪しい気もするけど。


「そういえば君達って、今はどれぐらいの数が居るの?」

『『『『『キャー』』』』』

「・・・うん、それは知ってる」


いっぱーいって、そのまますぎる。

山精霊に具体的な答えを期待したのが間違いだったかな。

そもそもどういう仕組みで増えてるのかもさっぱり解らない。

増える瞬間を見てみたいんだけど、本人達もちゃんと解ってないっぽいんだよね。


丁度良い。今日はお勉強はお休みでメイラも居るし、通訳をお願いして詳しく聞いてみよう。

そう思い家精霊の作ってくれた昼食を食べた後、メイラにその事を相談して山精霊を集めた。

先ずはどうやって増えるのか、って所を聞いてみよう。

今まで気にはなっていたけど、何だかんだちゃんと聞くのは初めてだ。


『なんか増えてるー』

『気がついたら増えてるー』

『いっぱいになると楽しいよー?』

『僕って増えた僕なのかなー? 多分元々居た様な気がするー』

『あんまり増えると僕の分のおかしのが減っちゃう・・・』


その結果、大体はこんな返事だった。最後は増える理由の返事ではないと思う。

取りあえず増え方は自分でも良く解っていない、という事になるのかな。

何で自分の事なのに解ってないんだろう。普通自分が増えたら気にならない?


それに『元々居た精霊』と『増えた精霊』の区別が自分で付いていない個体が居る様だ。

この辺りはやっぱり、一つになれる事が理由なんだろうか。


以前少し考察した事が有るけれど、やっぱり最低限の共有記憶が有るのかもしれない。

実際に個々の知識だったはずの事が、全体の知識になってる事が有るし。

その辺りもちょっと聞いてみよう。


『おんなじ事・・・覚えてるー?』

『覚えてる気がするー』

『主の事はちゃんと皆解ってるよー。だって主だもん』

『リュナドの事も、メイラの事も、パックの事もー!』

『テオは友達ー! 精霊を切れちゃう凄い剣!』

『アスバちゃんは良く遊んでくれるから好きー。でも時々こわーい』

『フルヴァドは家ではお外と喋り方が違うんだよー。何でだろうねー?』

『『『『『領主はきらーい』』』』』


予想通りと言って良いのか、この答えではちょっと悩む所が有る。

だって今ここに居る子は、普段から庭に居る子のはずだもん。むしろ知らない方がおかしい。

あとフルヴァドさんに関しては、お茶してる時も偶に普段とは違う口調になってるよ。


ただその後に一つ、記憶共有という予想が正しい、と言える内容を聞く事が出来た。

山精霊達は全員、私にやられた時の事を覚えていると答えたんだ。

『知っている』ではなく『覚えている』と、全員が経験した様に震えながら。


庭に居る精霊は、あの時居なかった精霊も居るはずだ。

いくら何でもあの時戦った全員がここに住み着いた、なんて事はないだろう。

つまり全ての山精霊が『知識』ではなく『記憶』として持っていると言う事になる。


この事から、一定の記憶は共有している、と考えるのが妥当だろう。

ただどの程度まで共有してるのか、という判断は難しいんだよね。


『メイラ達のお勉強はわかんなーい』

『僕、ちょっとだけわかるよー』

『僕もー。偶に横で聞いてるから解るー』

『僕はあれを聞いてると眠くなる・・・ぐぅ・・・』


だって、こんな風に個体差の有る事を言い出すんだもん。

錬金術に興味のある子とない子、興味は有るけど解らない、興味は無いけど解るとか。

個性豊かだ。君達は本当に全部で一体の精霊なの? って言いたくなる。

そして今は授業してないのに、思い出しただけで寝ないで欲しい。


「結局の所、増え方も、増えた理由も良く解らない、って事になるのかな・・・」

「精霊さん達の言う限りだと、そんな感じですね・・・」


メイラと一緒にうーんと唸っていると、頭の上の子がぴょんと降りて『キャー』と鳴いた。

そいえば君、ずっと黙ってたね。今何て言ったんだろう。

メイラに目線を向けると察してくれたのか、その内容を教えてくれた。


『主に付いて行く為に、主の役に立つ為に、主の縄張りを守る為に、僕達は増えたんだよー』


えーっと・・・つまり、精霊が増えたのは私が居るからって事?

何それ。確かに色々助かってるけど、それで増えられる物なの?

いやでも待って。縄張りって言われても、私にそんな物ない。

あえて言うなら家と庭ぐらいだよ。と言うと、また返答が有った。


『この国と海の国は主の縄張りだから、僕達も行けるんだよー』


あれ、これってもしかして、私が連れて行ったから、精霊も遠くに行けるようになったって事?

そういえば精霊達はずっと山奥に居て、街に来たのも私が連れて来たのが切っ掛けだ。

その後はどこかに出て行く事も無く、移動は山と街中だけだった気がする。


ただ国内で魔獣狩りをする際、頭の上の子は何時も一緒だった。

海にいった時も、何処に行くにも、基本的にこの子は一緒に居た。

待って、もしかしてこの子、私の行く所は全部私の縄張りだって思ってるの!?


「待って待って! 別に私の物じゃないよ!?」

『キャー?』

「え、何、メイラ、今のなんて言ってるの?」

「この国の王子のパック君も、海の国の王様も、笑って頷いたよ? って言ってます」


えぇー・・・何でぇ。っていうか、向こうの国王様が頷いたって、何で知ってるの。

やっぱり君達、一定の記憶の共有が絶対あるでしょ。都合の良い所だけの共有が。

それに縄張りって、私は野生の獣じゃないんだけどなぁ。


「増える理由は解ったけど、何か納得いかない・・・」


因みに結局どうやって増えてるのかは解らなかった。

最初言っていた通り、気がついたら増えてるらしい。やっぱり訳が解らない。


ただちょっと気になるのが、私の為に増えたっていう点だよね。

本当にそれだけなんだろうか。増える為の基準、みたいな物が有る気がするんだけどな。

だってもし山精霊がそれだけしか考えてないなら、絶対無限に増えてると思うもん。


頭の上の子の縄張り発言から察するに、活動範囲も理由な気がする。うーん?


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『全く、貴方達はもう少し、相手に解る様に説明する、と言う事が出来ないんですか』


セレスさんが思考の海に入ったらしい所で、家精霊さんが呆れた様に口にした。

ただ山精霊さん達はムカッと来たらしく、いーってしながら反論をしだす。


『したもんー!』

『家に言われなくたって解ってるもん!』

『べーっだ!』

『僕ちゃんとしたもん!』


最後のは何時もセレスさんの頭の上に居る子だ。

確かにあの子は結構ちゃんと説明したと言えると思う。

セレスさんの役に立つ為に増えた、ってとても解り易い理由だよね。


『増えた理由はそこではないでしょう』

「え、そうなの?」

『ええ、メイラ様。この者達は自分で自分の生態すら理解出来ていないのでしょうね』

『出来てるもん!』

『家は何でいっつもそうやって、僕には偉そうなのー!』

『家偉い!』


最後のは悪口でも文句でもないんだけど、指摘すると今は拗ねそうだから措いておこう。

家精霊さんはその言葉を無視して説明を続け、山精霊さん達はむーっと頬を膨らませている。

なので何体か膝に乗せてあげて、撫でて機嫌を取りながら聞く体勢に入った。


『単純に言えば、ただ活動範囲が増えたから数が増えた、というだけに過ぎません。ですが細かく言うのであれば、主様の僕としての性質を持ったが故に、主様の活動範囲を自身の領域として認識し、その領域に見合った数に増えている。そんな所でしょう』

「えーっと・・・つまり、セレスさんが色んな所に行くから増えた、って事だよね?」

『それ僕言ったもん! 家が言わなくても言ったもん!』

「そ、そうだね、たしかに山精霊さん、そう言ってたねー」

『ええ。ですが肝心の部分が間違っています。あれではまるで貴方達が主様の為に増えた、と言っている様ではありませんか。順序が逆でしょう』


順序が逆? どういう事だろう。


『増えたのは山達の性質。主様の為に増えたのではなく、主様を主としているが故に増えた。つまり、ただ勝手に増えただけです。人間に置き換えると単純に成長した様な物で、別に山達が主様の為に自分で増やした訳ではありません。増えた分で役に立とう、としているんです』


んー・・・ああ、成程、解った。やっと解ったよ。

別に増えた事に、山精霊さんの意思は介在してないんだね。

増えられる環境になったから勝手に増えたんだ。

だから自分達も『気がついたら増えた』って言う認識なんだね。


『でもいっぱい居たら主の役に立つもん。だから間違って無いもん・・・』

「そ、そっかぁ・・・」


頬をぷくーッと膨らませながら言う山精霊さんに、あははと苦笑いで返す。

実際精霊さん達は皆セレスさんが大好きで、役に立つ為に張り切ってるのは確かだと思う。

そういう意味では増えた分役に立てると言う事は、役に立つ為に増えたって言えるのかな?


取りあえずセレスさんにこの事は伝えておこう。

勿論セレスさんの事が大好きで役に立ちたい、っていう気持ちが先走ったって事もね。

だって解るもん。大好きな人の役に立ちたいって気持ち、凄く解る。


「ん、あれでも、確かに増えた理由としてはちょっと違うのかもしれないけど、山精霊さん達がセレスさんを大好きで主だって思ってるから増えた、って言うのは合ってるんだね」

『そうだよ! 合ってる!』

『僕主の事大好きだもんねー!』

『家の屁理屈ー!』


山精霊さんが皆で『そうだそうだー』と言い出し、けれど家精霊さんはふっと笑った。


『主様の役に立ちたい、という気概は買いましょう。実際に役に立っている事が有るのも認めましょう。ですが今主様は、正しい知識を所望でした。故に訂正をしたまでです』


確かに家精霊さんの言う事は正しい。実際セレスさん納得いかなそうな顔してるし。

けど山精霊さん達も納得がいかず、またむーっと頬を膨らませてしまった。


『もー! 家はいちいち細かくて煩い! 何でそうなの!』

『家偉いよ!』

『そうだぞ、偉いぞー!』

『・・・本当に、貴方達は勢いだけで喋りますね』


あはは。でも私、そういう陽気な所好きだよ。明るくてすっごく安心するもん。

家精霊さんだって本当は結構好きでしょ? 今だってクスッと笑ってるし。

普段だって何だかんだ言いながら、山精霊さん達の面倒見てるもんね。


さて、私はセレスさんに今の話を纏めて通訳しなきゃ。

聞きたそうにこっち見てるし。ふふっ、些細でも役に立てるのは、やっぱり嬉しいよね。


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ちょい宣伝。

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もしかしたら既に届いているかもしれない。宣伝が手遅れだったらごめんなさい。


尚、リュナドの割と初期頃のお話です。

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