痛い思い出

 もう10年くらい前の話になります。我が家の周りには、まだ雑木林が残っているので、夏になるとセミの声がうるさいほどです。まれに、カブトムシやクワガタも飛んできます。


 その日も、夏の夕暮れに、一匹のクワガタが飛んできました。小さなコクワガタのメスでした。急に訪れてきた珍客に、ゆずは興味津々でした。


「フンフンフン」


 鼻を鳴らして、クワガタを嗅ぎまわっていました。すぐにパクリといかないところが、何事にも慎重派のゆずらしいところです。


 しばらく、嗅ぎまわっていたところ、突然、感電でもしたかのように、全身をピンと伸ばして、飛び上がりました。そうです。鼻先を挟まれたのです。


 それ以来、ゆずがクワガタに近づくことはありませんでした。


 一方のきなこお嬢様。こちらは、ハンターの素質あふれる猫の血脈。対戦相手は、家に入ってきたアリでした。黒く大きな兵隊アリに興味津々のきなこお嬢様。やはり、においを嗅いでいます。妙な既視感がありました。


 次の瞬間、きなこお嬢様も、ぴょんと飛び上がりました。尻尾はパンパンに膨らんでいます。きなこお嬢様もアリに鼻先を挟まれたのです。


 きなこお嬢様も、それ以来、アリやクモには警戒心MAXになりました。種族は違うのですが、似た者兄妹のお話でした。

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