第23話 777回目の転生は楽などなく苦ばかりです。

 勇者として魔王を倒したいという気持ちは【勇者の証】をアイテムボックスに入ることを決断させ、【婚約指輪】を装備し、イムに向けて満面な笑顔で左薬指を見せた。

 イムは相当嬉しかったのであろう俺に抱きついてきてくれた。

 776回の俺の気持ちを踏まえてしまうと棒読みになってしまう。

(ああ、なんて幸せなんだろう)

 俺の勇者像が崩れ落ちていく。

 遊者(ライト)とカルバンは惜しみのない拍手をしてくれていた。どうせまた褒められたいという魂胆であろう。俺を見ずにイムを見ながら拍手を見ているのだから。

 美人の妻、仲間から祝福された結婚。こんなにすばらしいことはない! ......場面が違えば。これが物語の終盤で魔王を倒したら、結婚しようというフラグを立て、その死亡フラグとも取れる発言からの魔王を撃破! そして平和が訪れたのち、二人は幸せになるのでした。


 が理想だったが、勇者として冒険を出て初めて手に入れたものは【伴侶】という二度と経験出来ない出来事をさせていただきありがとうと言いたい。

 そんな俺の気持ちを無視するかのように、遊者(ライト)は照れながら、俺に話しかけてきたんだ。


「セブン、あんまり旅の時にラブラブするんじゃないぞ、一応俺も好きだったんだから」

「おいどんもごわす」


 本人を前にカミングアウトをするなよ。

 イムは伝家の宝刀、作り笑いでこの場を切り抜けようとするようだ。

「もう。二人ったら。私はセブン以外、人間として認めていないので。もし私に悪影響を及ぼすならピピピ(生き返っても恐怖で棺桶から出さないようにするぞ)だからね」

「ピピピでごわすか。是非ともピピピをお願いしたいでごわす」


 カルバン、お願いするのか?


「ちょっと待て、俺が先だ」


 あ〜絶対にピピピをデコピンとかそのくらいのレベルで考えているんだろうが、興味のない男性には甘くないのだよ。女性というものは。

 そしてイムよ、モンスター語のうまく活用したと思う。内容は笑えたもんじゃないが、この二人を騙すのにはちょうどいいだろう。


「イム、遊者は俺だということを忘れるなよ」

「おいどんはイムを守るでごわす」


 遊者(ライト)とカルバンは親指をイムに向けて立てると森がざわついた。

 そのざわつきは明らかにイムの怒りに反応したとは遊者(ライト)たちは思いもしないだろうが。

 ここはイムの怒りを止めておかないと、ただじゃすまないことになりそうだ。

 俺はイムの手を握ってイムを見つめた。


「僕の妻に呼び捨ては止めてください。僕たち夫婦なんで、僕だけの特権です」


 イムは【夫婦】という言葉に反応したのか、嬉しさのあまり俺の頬に頬を寄せてスリスリとしてくる。

 推測するに、スライムはほぼ体が顔であるため嬉しい時の仕草が顔スリスリなんだと思う。

 なぜ理由を聞かないのかって? もちろん俺の想像を超えてくるからに決まっている。聞かなきゃ良かったとなる気がして。


 そして、イムの顔スリスリが止まることなく俺はやっとの思いでニコルの村に到着した。

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