4. 鬼畜の家族
アネモネ
「おはよう、光太くん」
「……おはようございます」
今日は夏休み最終日。
翰川先生も拠点をこのアパートに戻したので、理数科目を教えていただこうと画策していた日。
なぜか俺は、マグマのような髪色をしたとんでもない美人に朝食を作ってもらっていた。
「味はどうかしら。あんまりお醤油を使ってみたことがないから、自信がなくて」
ルピネさんとよく似た美貌の彼女が問いかけてくるのを、無の心で肯定する。
「非常に美味しいです」
無の心を保たねば、彼女のあまりの美しさにキョドってしまいそうなのだ。
ちなみに、美味しいという言葉に嘘は一切ない。豚ひき肉とチーズ、ネギ等が包まれた卵焼きは絶品であるし、コンソメスープもレシピを教わりたいほど美味しい。
「まあ、ほんとう? 嬉しいわ」
めちゃくちゃ美人だなこの人。
「……あのう」
「なあに?」
根本的な疑問を口にする。
「あなたは、どなたですか?」
朝起きると茶の間に自然に居たものだから、むしろ『俺が家を間違えているのか?』と一瞬錯覚してしまった。
「あっ……ごめんなさい! そうよね。まだ自己紹介も……」
彼女は少し恥ずかしそうにしてから、気品ある挙措で一礼した。
「私はアネモネ・ローザライマ。シュレミア・ローザライマの妻です」
ですよねー。
なんとなくわかっていましたとも。
「……シュレミアさんの容姿でこんな奥さんがいるのは、なかなか……」
「そうよね。あのひとと私じゃ到底釣り合わなくて……あんなに綺麗で格好いい人と」
旦那さんラブな人か。
翰川先生と気が合いそうだな。
「あ、いや。お二人ともあり得ないレベルの美形だから、お似合いだと思います」
「っ……そ、そう? ありがとう……」
そして可愛い。
ますます翰川先生との類似度が上昇する。
シュレミアさんも、きっと奥さんラブな人なのだろうな。こんなにも可愛いならきっとそうだ。
「して、こんなに美味しいご飯をどうして作ってくださったんです?」
「そう。そうなの。あなたにお詫びをしなくちゃって思ったの」
アネモネさんがはっとした顔をした。
「夫がご迷惑をおかけしました」
答えにくい……!
「シュレミアさんには……その。恐怖も与えられましたが、勉強も」
「わかってる。あのひとなら若者の利益になることをするわ。でも、必ず迷惑もかける。利益と迷惑は帳消しにはならない。謝らなくちゃ」
「……」
「その分の謝罪とお詫び」
凛としている彼女はとても美しい。
「ありがとうございます。嬉しくて美味しかったです」
「良かった」
「……そんなに、迷惑かける人なんですか?」
「あのひと、緊張すると斜め上の行動と発言をするのだもの。見なくても聞かなくてもわかるの……」
苦労もしているんだなあ……
「ひぞれは佳奈子ちゃんのところで、女子勉強会に参加しているわ」
「紫織ちゃんと三崎さん?」
「三人に加えて、京ちゃんのクラスメートもいるんですって」
「おお……」
それぞれの人見知りが良い方向に前進しているようだ。
「ミズリは涙を飲んで仕事に行ったわ」
「……ミズリさんってなんの仕事してるんでしょう?」
翰川先生は長期休みの理由がある。そして、ミズリさんはその突発的に長期休みとなった彼女に合わせられるほどに自由度が高い仕事なのだろう。
そう思えば思うほど、どんな仕事なのかわからなくなる。
「美容と薬品の企業に勤めているわ。シャンプーとか化粧水だとかの開発をしているの。神秘の扱いが得意だから、ほかのいろんな会社と組んで新製品の開発をしたりも」
「凄いっすね」
今度、会社の名前聞いてみようかな。
「ひぞれの髪質を維持するために作り上げた会社だけれど、今では大企業よ」
「…………」
聞くのやめよう。
「私が教えるのも筋が違うわよね。……これから順番に来るのだし」
「じゅ、順番?」
「これから、私の子どもたちが来るわ。ごめんなさい」
「……」
8人兄弟が来るということか。
それはもう確定事項なのだろうから、良いのだが。夏休み最終日であろうと、異種族の皆さんは御構いなしだろうし。
「……シュレミアさんは降臨しますか?」
「あら、降臨だなんて……」
彼女は少し悩んでから苦笑した。
「微妙なところ、かしら」
ものすごい不安だ。
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