ある女商人の苦労話5 それぞれのオーダー
私がオーダーしたのは3品。
もちろん揚げ物はひとつ絡めている。定番の唐揚げよ。これは外せないわ。しかも、このお店の唐揚げはマスター仕込の秘伝ダレを使ってるって書いてあったから、とっても美味しいと思うのよね。
もう一品は魚ね。肉と魚をどちらも食べるのが私流。揚げ物だらけでも別にいいんだけど、美味しくさらにちょっとだけ健康に配慮していたら自ずとそうなった。今回はホッケの開きという超ド定番にしてみたわ。ド定番だけど意外と頼まないから、私の記憶だとかなり前じゃないかな、前回食べたのって。
「ジェリカは随分と手堅いオーダーよね」
「そうでしょ? あえてそうしているのよ。そういうミユは、ドリンクだけじゃなくてフードもおしゃれなものを頼むわよね」
「まぁね。冒険者だった頃も油断すると男子メンバーが重たいものばっかり頼むから、わたしが注文してそれを避けていたのよ」
「男の子ってそうよね。お肉があればなんだっていいんじゃないのかしら?」
「ホントホント! 何かあれば肉、肉って、食事代も高くなるし、ホント勘弁してって感じだったわ」
本当に嫌だったのか、ミユが随分感情的に言葉を吐き出した。チョビっとずつ飲んでいたカシスウーロンが一気に消費される。
「そういうのがあるから、冒険者パーティーは女の子が財布を管理するのかな?」
「じゃない? 少なくともウチのパーティーはわたしが管理しないとカッツカツを通り越してすぐに大赤字になっちゃうところだったわ」
「その日暮らしは危ないわよね。冒険者っていっても、いつもお宝が手に入るわけじゃないしね」
「ジェリカも商人だったならわかるでしょ? お宝の入手なんて稀よ、稀。未踏のダンジョンに出くわせたパーティーだけが勝ち組ね」
「そうね。確かにあんまり冒険者冒険者している人って私の店に売りには来なかったな。どちらかと言うと購入客だったわよ」
「それが普通よ。冒険者はクエストをクリアして報酬でお金を稼がないと、ダンジョンの戦利品だけで暮らすのなんて無理に決まっているわ」
「でも、そういうのを生業にしている人もいるんじゃない?」
「いなくはないわ。でも稀よ。そのへんのモンスターを倒してもまったくお金にならないわ。素材が貴重なモンスターは強いし、数も少ないしね」
さっきの店員さんが運んでくれた唐揚げをパクつきながら、私はミユとの会話を続ける。お酒が入ったら言葉が多くなってきたから、いろんな話ができそうだわ。
「この唐揚げ美味しいわね」
「ホントホント。さっすがマスターの秘伝のタレ仕込みね」
確かにこの唐揚げは美味しかった。衣はバリッとしっかりと揚げられている。低温と高温の二度揚げをしているだなんて、なかなか手の混んだ調理をしているじゃない。コストを惜しまず美味しい料理を提供するという姿勢はとても評価できるわ。どんな店長なのかしら? ……あ、マスターだったわね。
「下味もいいわよね」
「生姜とニンニクがとてもよく効いているわ。遠慮のない濃い味もお酒によく合うわね。胸肉じゃなくてちゃんともも肉を使っているのもポイントが高いわ」
「ジェリカってグルメレポートみたいに評価するわよね」
「やだ、そうなってた? 職業病かしら」
言われてみれば、気付けば食レポのようになっているかもしれない。
「でも、どの食材をどう仕込んでどう調理したのかって気にならない? どうしたらこの美味しさになるんだろうって思うと分析しちゃうのよね」
「気持ちはわかるけど、レシピ教えてもらうとかでもいいんじゃない?」
「初見のお店とかでいきなりレシピ教えてってのも変じゃない? 教えてくれないところも多いだろうし」
「それもそうか。でも、わたしは美味しいとは思っても、どうして美味しいのかって考えたことはなかったわ」
「そうなんだ。私の周りも商人だらけだったから、目利きっていうのか、あれもこれも調べるクセは確かにあるわ」
「じゃあ、やっぱり職業病なんじゃない?」
6個盛りの唐揚げをふたつずつ食べたところで、次の料理がまたあのお兄さんの手により運ばれてきた。
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