異常者
音無砂月
序章
殺すくらゐ 何でもないと思いつつ
人ごみの中を闊歩して行く
夢野久作
よく殺人願望のある人は人が死ぬところを見たとか、死にそうな目にあったとか、虐待を受けている人に多いと聞く。
でも私は違う。私はそんな目に合っていないし人の死ぬところも見たことがない。
極々普通の一般家庭。何処にでもあるつまらない家庭に私は生まれた。
親に愛されていたと思う。多分。
望まれて生まれて来たんだと思う。多分。
なのに私は小さい頃から殺人願望があった。
幼稚園で描いた絵はナイフを持った少女と横たわる人間。そして、真っ白な紙を赤いクレヨンで塗りつぶした。
周りはみんな私を異常な眼で見ていた。
幼稚園の先生は「こんな絵を描いてはいけない」と言って、私から紙とクレヨンを取り上げた。
「どうして?」と聞いた私に先生は言った。「異常よ」と。
其の時は幼すぎて、言葉其のものの意味は分からなかった。でも、後で先生が私の親に描いた絵を見せて「どういう教育をしているんですか?」と怒っていた。私の親はひたすら頭を下げていた。
そして家に帰った両親は先生と同じことを言った。「こんな絵は描いてはいけない」と。だから私も同じことを彼らにも聞いた。「どうして?」と。すると両親は言った。「みんなと同じものを描きなさい」と。
何となく『異常』という言葉を理解した。
私はみんなとは違う。違うことはいけないことで、其れは『異常』なんだと。
でも私は思った。みんなと同じことをすることに意味があるのだろうか?
小学生の頃、クラスで飼っていたウサギが死んだ。みんな泣いていた。
私は泣かなかった。
私は考えた。此のウサギは死ぬ時、どんな気分だったんだろう?
生き物を殺す時ってどんな気分になるのだろう?と。
私は異常だ。そんなことはもうとっくの昔に分かっていた。
でも異常であることはいけないことだと両親は言う。
変わらない私に、あの時人が殺される絵を描いた幼い時の私が其のまま成長したことを知った両親は「恥ずかしい」と言う。
でも、此れが私なんだと思った。
成長することによって倫理観というものは理解した。でも、みんなが持っている倫理観と私の倫理観はやっぱり何処か違ったと思う。
❝人を殺してみたい❞
次第に生まれた感情は成長するごとに大きくなっていた。
私は其れが悪いことだとは思わなかった。
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