第3話 七色の光
タクロー「はいっ!停まってー。」
運転手「どうしたんだい?」
タクロー「急いでお願いします!」
タクシーの中、震えが止まらない。
電話で看護師さんの深刻な声、すぐ来てくれというあの言葉。
不安でたまらい。
ナミになにが起きているのか。
目の前もよく見えないくらい頭の中は悪い方へと。
運転手「着いたよ。」
タクロー「お釣り大丈夫です!」
急いで中へ。
そして階段を駆け上がる。
見覚えのある看護師さんが、
看護師「あっ!ナミさんの…」
タクロー「ナミは、ナミはっ…」
看護師「実はトイレで倒れて。」
タクロー「ナミはっ」
看護師「意識がなくて、赤ちゃんは帝王切開でこれから。」
医者「ご主人ですね。」
タクロー「はい。」
医者「これから帝王切開で。」
医者「奥さまはこの状態での出産でかなり身体に負担がかかります。」
タクロー「えっ?」
医者「できる限り最善を尽くします。」
タクロー「えっ!?」
手術中
なにがなんだかわからない。
目の前が真っ白。
ただナミが無事で、赤ちゃんも無事で三人で家に帰りたい。
ただそれだけでいい。
数時間放心状態。
ガチャ
医者「ご主人。」
タクロー「あっ…」
医者「無事女の子が産まれましたよ。」
タクロー「ナミはっ?」
医者「意識が戻るのを待つだけです。」
タクロー「…赤ちゃん」
医者「もう少ししたら会えますよ。」
タクロー「わかりました。」
産まれた喜び、ナミの心配、複雑な心境。
ただ待つしかできないもどかしさ。
もうどうしていいかわからない。
看護師「こちらへ。」
タクロー「はい。」
看護師「女の子です。」
なんか涙が止まらない。
看護師「抱っこしますか?」
タクロー「はいっ。」
小さく、ホントに小さく暖かい。
その姿はキラキラ光って。
親になった実感とかじゃなく、小さなこの子を抱ける喜び。
そんな中、
医者「意識が戻りました。」
タクロー「はっ、はいっ!」
急いでナミのところへ。
タクロー「…ナミ。」
ナミ「タクロー。赤ちゃん。」
タクロー「ああ、元気のいい女の子。」
ナミ「よかった…。」
ナミ「名前、名前ね、リナってどう!」
タクロー「リナか、かわいいな。」
ナミ「いいの?」
タクロー「ナミが考えてくれたんだからいいに決まってるだろ。」
タクロー「決まり。」
ナミ「ありがとう。」
色々な安心で一気に喜びが大きく。
仕事があるタクロー。今日は家に帰る。
横になっていたらいつの間にか眠りに。
起きろー
いつもの目覚まし。
起きろー
なんか昨日疲れたせいか起き上がるのがだるくて止められないでいた。
起きろー
…おめでとう。タクロー。
はっ!?
いつもはすぐ止めていた。
まさかこんなのが入ってるなんて。
いやっ、まさか…。
また勝手にきて入れたのか?
そんなわけない。
こんなタイミングで新しい言葉に気がつく。
何年も使ってるのに今日まで知らず。
あの日の事が頭をよぎる。
会話まで鮮明に。
不思議な気持ちで仕事に。
今日は早く仕事終えて、2人のところに。
ナミ「タクローおかえり。」
タクロー「調子は?」
ナミ「大丈夫よ。リナも元気。」
タクロー「そっか。よかった。」
タクロー「あのさ。」
ナミ「なに?」
タクロー「目覚まし時計、今日止めれなくて起きろーってあとに、おめでとうって。」
ナミ「えっ?」
タクロー「最初から入ってるのかわからないけど、タイミングがさ。」
ナミ「そっか…。わたし倒れたじゃない。その時誰かが看護師さん呼んでくれて、ただその人なんだけど…」
タクロー「助けてくれた人?」
ナミ「そう。看護師さんも誰かわからなくて、わたしのお見舞いに来た人なんじゃないかって。」
タクロー「まっ、そんなとこだろ。」
ナミ「来てないんだ。誰も。」
タクロー「じゃあ、他の誰かのお見舞いに来た人じゃない?」
ナミ「それがね。その人看護師さんに、ナミさんが大変ですって言ったらしくて。」
ナミ「わたしの名前知ってたのよ!」
タクロー「…!?」
ナミ「髪は肩くらいで小柄な女の人」
タクロー「えっ!?」
ナミ「目覚まし時計の人?」
タクロー「いやっ、まさか。」
ナミ「それで今度は目覚まし時計でおめでとうでしょ?不思議よねー。」
タクロー「なんか偶然だよ。偶然。」
ナミ「変な偶然。」
来たのかもしれない。
いや、来てたんだ。そしてまた知らない間にいなくなったんだ。
タクローはそう思った。
こんなの偶然じゃない。
もしそうならなんで顔見せないんだ。
やっぱ偶然なのかなー?
帰り道そんな事考えながら歩いた。
月は薄い雲に半分かくれて、それはまるで今日の出来事のように。
来たのかもしれない痕跡はあるものの姿は見えなくて。
あの日からタクローの中にいつもいる。
この先もずっといるだろう。
家に着いたタクローは一応トイレの中まで全部見てみた。
いるはずはないだろうとは思いながら。
やっぱりな。
そう思ったが、なんか嬉しさもある。
リナの誕生を祝ってくれてる気がしていたからだ。
ピンポン
…はっ!?
急いで玄関に走る。
ガチャ
「おめでとうー!!」
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