でも、目覚まし時計[どうした?目覚まし時計続編]

オッケーいなお

第1話 時は過ぎ

まだ肌寒い春の朝、タクローはなんだか目が覚めた。

早起きついでに散歩に。


タクロー「さむ〜。」


まだ四月になったばかり。

薄明るい街並みはまるで時が止まっているような、そして朝靄に包まれる景色は、自分が見慣れた景色とはまるで別世界である。

少し歩くと、一筋の光が眩しいくらいに道路を照らしていく。

空はだんだん明るく、そして眩しい朝日が昇ってくる。


タクロー「帰るかー。」


こんな綺麗な朝日を前にしてもタクローにはなにも響かない。

いろんな意味で鈍感なのである。


ガチャ


ナミ「あー、どこ行ってたの〜?」

タクロー「なんか、早くに目が覚めたから散歩に行ってた。」

ナミ「散歩?珍しいわね。」

ナミ「雨降らないかしら?」

タクロー「残念。綺麗な朝日が昇ってとてもいいお天気です。」

ナミ「あっ、私今日病院なんだ。タクロー仕事休みよね?一緒に来てくれる?」

タクロー「一緒に来いと?」

ナミ「ま〜ねー。かわいい奥さんが大きなお腹で1人なら心配でしょ?」

タクロー「まぁ、そうだな。」

ナミ「よろしく〜。」


タクローはもうすぐ親になるのだ。

ナミのお腹はかなり大きく、心配して今日はタクローも一緒に病院へ。


医者「順調ですね。」

ナミ「ありがとうございます。」

ナミ「それじゃあ、失礼します。」


ガラガラ


タクロー「どうだった?」

ナミ「順調だって。」

タクロー「そっか。」

ナミ「ねー、お腹すいた。」

タクロー「じゃあ飯食って帰るか。」


時計塔。

変わらない駅前。

いつもの定食屋。


ガラガラ


店主「いらっしゃい。」

妻「いらっしゃいませー」

店主「おっ、ダンナじゃないか。久しぶりだなー。元気か?」

妻「タクローじゃない?随分久しぶりだねー。あらっ、ナミちゃんも久しぶりね。」

ナミ「お久しぶりです。」

タクロー「どーも。」

妻「あらー、ナミちゃん随分お腹大きくなったねー。もうすぐかい?」

ナミ「はい。もうすぐです。今月中かな?」

店主「タクローがパパかー。」

妻「タクローがパパねー。」

タクロー「なんだよ?」

妻「いやいや、うれしくてさっ。」

タクロー「それはどうも。」

ナミ「私いつもの。」

妻「タクローもかい?」

店主「こいつに聞くかー?」

タクロー「ナミと同じで。」

店主「…?」

妻「どーしたんだい?あんたジャンバラヤ以外食べたことないじゃない。」

タクロー「なんとなく」

ナミ「なんか、急に食べたくなったらしいよ。」

妻「へ〜、珍しいね。」

ナミ「でしょー。」


店主「オムライスセット2つねっ。」

妻「タクローがオムライスセットね〜。」

タクロー「なんだよ〜。」

妻「そーいえば、あの娘元気かい?1回連れてきた、あの親戚の…」

タクロー「あっ、ああ。多分元気だよ。」

ナミ「だれ?」

妻「タクローがね、1回連れてきた親戚のかわいい娘。オムライスセット食べてね。」

ナミ「へー、初耳。ねっ、それだれ?」

タクロー「だから、親戚の娘だよ。結構遠縁だからさ、あまり会うことなくて。」

ナミ「結婚式来てた?」

タクロー「いや。遠くにいるし…」

ナミ「ふーん。」

妻「あれ?ナミちゃん知らなかったの?」

ナミ「うん。初めて聞いた。」

タクロー「たいしたことじゃないし。」

ナミ「なんでも話すって言ってたのに〜。」

妻「ほらっ、冷めちゃうから」

ナミ「あっ、いただきまーす。」

タクロー「いただきます。」


タクローは少し思い出していた。いつかのあの日。オムライスセットを食べてた。

美味しいと言ってよこで食べていた。

あの日のこと。

1日も忘れた事がない。


ナミ「ごちそうさまでしたー。」

タクロー「ごちそうさまー。」

妻「今度は、三人かい?」

ナミ「うん。」

店主「楽しみにしてるぞっ!」

ナミ「はーい。」

店主「じゃー頑張れよー。」

妻「ありがとうございました。ナミちゃん頑張ってねー。」

ナミ「はーい。じゃあまた!」

タクロー「どーもー。」


いつもの駅からの道。

あの日もこうやって歩いたな。

なんてこと考えながら歩いた。

きっと親になる不安や楽しみ、色々考えてなんかマジマジ思い出したのだ。


ガチャ


ナミ「ただいまーっ。」

タクロー「大丈夫か?疲れてないか?」

ナミ「大丈夫よ。」

ナミ「それよりさっきの話。だれその娘?あの目覚まし時計の声ってその娘?」

タクロー「その〜、実はそうなんだ。」

ナミ「へー。ちょっとヤキモチ!」

タクロー「いや。そーいうのじゃなくて。」

ナミ「わかってるよ。なんかきっと大切な事あるんでしょう?」

タクロー「なんで?」

ナミ「だって、わたしと初めて会ったあの日の事。なんか不思議だなって、その時タクロー誰かにありがとうって言ってたし。わたししかいなかったのに。」

タクロー「えっ!?言ってた?」

ナミ「言ってたよー。わかんないけどきっとなんかあったんだなって思って。」

タクロー「そっか。」

ナミ「なにがあったか、その娘がだれかわからないけど、きっとその事が関係して出会えた?のかなって。」

タクロー「まっ、そんなとこだ。」

ナミ「でっ、誰なの?」

タクロー「不思議な話だから、言っても信じてもらえないし。」

ナミ「タクローのことはなんでも信じてるよ。」

タクロー「きっとわからないかも。」

ナミ「それでも知りたいな。目覚ましの声の主が誰なのか。気になってたし。」

タクロー「えっ?気にしてた?」

ナミ「そりゃ、そうよ。わたしの声ならわかるけど、知らない女の子の声だし。」

タクロー「あっ、そっか。」

ナミ「鈍感!」

タクロー「だな。」

タクロー「そろそろ子供生まれるし、会ったあの日の話もしなきゃって思ってたところだし。」

ナミ「だからオムライス?」

タクロー「かもな。」

ナミ「ホント、あのお店でジャンバラヤ以外食べてるの初めて見た。」

タクロー「だってうまいんだもん。あの店のジャンバラヤ。」

タクロー「でっ、どっから話す」


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