28話-1、だんだんと学んでいく、食いしん坊のメリーさん
もちろん、最初は恥ずかしかったわっ。でも、あまりイヤな気分にはならなかったし、いつの間にか私も一緒になって笑ってたの。
ずっとずっと話しては、お互いに知らない私を共有し合っていってる。その時の香住は、とても無邪気に笑ってた。
携帯電話の番号も交換しちゃったし、楽しそうにずっと笑顔でいるし、香住に清美を紹介した甲斐があるってもんだわっ。でも、そんな楽しい時間は、ずっとは続かない。
壁に掛けられてる時計が、いきなり綺麗なオルゴールの音を奏で始め、私達の楽しい時間を遮るように邪魔してきたの。
耳に入ってくるオルゴールの音は、弾んでた心を落ち着かせてくれて、次は何を話そうかなっていう考えを白く染め上げる、寂しい音色だ。
時計に目をやると、夕方の五時を指してた。目を窓に移すと、青空だった空は、いつの間にか鮮やかなオレンジ色に変わってる。
そう。時間は私達を置き去りにして、勝手に進んでいた。そろそろ夕ご飯の時間であり、悲しい悲しいお別れの時間だわっ。
香住も私と同じ動作をして、時間の流れを思い出すと、清美に向かって苦笑いを送り、頬をポリポリと掻いた。
「もう、こんな時間なんですね。全然気がつきませんでした」
「ですねー。久々に楽しかったので、時間があっという間に過ぎちゃいましたね」
「そうですね。それじゃあ、夕飯の支度をしないといけないので、そろそろお家に帰りますね」
香住の物寂しそうな表情とは反し、清美は微笑んだ顔を保ったまま、手をパンッと叩いた。
「いえ、帰るのはまだ早いです。夕ご飯は、ここで食べていってください」
「えっ!? いいんですか? 迷惑じゃないですかね……?」
「そうよ、清美に悪いわっ」
「いえいえ、全然そんな事ないです! それに、香住さんとメリーさんに拒否権はありません! だってもう、人数分の夕ご飯が用意されているでしょうし……」
そう説明した清美の表情が、苦笑いに変わった。たぶん清美の意思とは関係なく、夕ご飯が用意されちゃってるのかしら? その口ぶりから察するに、実際何度かあったみたいね。
お城みたいな家の夕ご飯って、まったく想像できないわっ。きっと、眩しく輝いてるに違いない。……それだと食べにくいわね。
それとも沢山出てくるのかしら? 山盛りになった肉団子とかっ! それだと嬉しいなぁ。
そんな願望を膨らませてると、背後から扉の開く音がした。後ろを見てみると、私達をこの部屋まで案内したしつじ? と、頭にフリフリした白い物を付け、ふわふわのスカートを履いてる女性数名が、何かを押しながら部屋に入ってきた。
その人達が、私達が座ってるソファーの横まで来ると、深くお辞儀をしてからテーブルの上に、大きいお皿を並べ始める。
お皿の上には、銀色の丸い物が覆いかぶさっていて、何を置かれたのか見ることができない。
「香住っ。このお皿を覆いかぶさってるのは、いったいなんなのかしら? これも食べられる物なの?」
「これは確か、クローシュ、だったかな? 高級料理店や、すごく高いホテルぐらいでしかお目に掛かれない物ですね。ちなみに、これは食べられないので齧らないでくださいね?」
「くろーしゅって言うのは、食べられないのね。先に聞いてよかったわっ。また恥ずかしい話が増えちゃうもの」
「た、食べるつもりだったんですね……」
「あっはははは。見たかったなぁ、クローシュを齧ってるメリーさん」
香住が口をヒクつかせて、清美は大笑いしてる。なんだか、余計な事を言っちゃったかもしれない。言わなきゃよかったわっ。
私が頬をプクッと膨らませて、二人を交互にジッと睨んでると、しつじが私と香住の首に、体の前が隠れるほど大きな白い紙を掛けてきた。
「なに、これ?」
「紙エプロンでしたっけ?」
「香住さん、正解です。メリーさん、これは食べられるからね」
「絶対ウソよっ! 紙なんでしょ、これ! 紙は食べられない物だって、ちゃんとわかってるんだからねっ」
清美がにへら笑いをしながら、「バレたか」とか言いつつ後頭部を掻いた。先に香住の部屋で、こっそりとティッシュを食べといてよかったわっ。
だって、全然おいしくなかったもの。おいしい物が食べ物、まずい物が食べちゃいけない物。ちゃんとわかってるんだから。
これからは、二人の前でわからない物があったら、先に聞く事にしよう。聞く前に食べちゃったら、また恥ずかしい思いをしちゃうもの。
そう決めてる中。しつじ達がジュージュー音が鳴ってるお皿をテーブルに置くと、その皿の上に乗ってるくろーしゅをパカッと開けた。
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