第42話 彼は思い出し、私は思い知る。
夏休み初日は、特にすることもないので、ずっと家に
そーたと友達になったあの日から、どうも私の調子がおかしい気がする。
そーたを見ると何故だか無性にモヤモヤしてしまうのだ。それが友達に抱く感情として正解なのか、ロクに人と関わらなかった私には到底理解ができない。
『もしもし』
「も、もしもし、そーた、どうしたの」
声だけのやりとりなのに、そーたの着信に出るのに、ボサボサの髪型を整えたり、慌ただしいことをしてしまったので、私は呼吸を乱してしまった。
『あのさ、聞きたいことがあって』
「なに」
『
そーたの電話越しの言葉に、何故かチクリと胸を痛め、気づくと電話を切ってしまっていた。
すると、もう一度スマホが鳴り、私はおどおどしながらも耳元にスマホを当てた。
「なに」
『なんでそんなに不機嫌なんだよ』
「うるさい」
何でイラついてるか、私にもわからない。だから返す言葉が見つからず、素っ気ない返しをしてしまう。
「奈緒がどうしたの」
さっきまでの態度を改めて、私はそう聞いた。
『アイツ今何してる』
「知らない、ここには帰っていないと思う、私の隣の部屋だから分かる」
『そうか』
そーたが奈緒のことを気にかけているということに分からないけれどムカっとしてしまう。
そんな私を落ち着かせるように、一度ため息をついて、冷静に戻る。
「奈緒と何かあった?」
『……いや、今日の宿題を渡そうと思ってな』
この時私は、理由もなくそーたが嘘をついていると思った。だから下に降りて直接問い正そうなんて意地悪なことをしてしまった。
下に降りると、そーたは慌てて嘘を事実にしようとした。
隠すってことはきっと何か困っているに違いない。それを聞いてあげるのが友達なのだ。
けれど、そーたはそんな私を拒否した。
それがグサリと胸に突き刺さった。心臓をえぐられたかのような痛みと息ができなくなりそうなくらいの苦しさに襲われてた。
あの日の夜、そーたと私は友達になった。けれど、それは私だけの勘違いだってのだろうか。本当に深く傷ついてしまったのだ。
そーたを拒絶して部屋に戻った私は、その日、ずっと涙を流した。
初めてできた友達は、きっと私のことなんか考えていなかった。そんな考えから、どんどん根拠のないネガティブな思いに体を支配されて、気づくと泣き疲れて眠っていた。
けれど、朝になると少し冷静に戻ることができていて、私は後悔したのだ。
最初、私はそーたを心から嫌っていた。あの4人が取られてしまうのではないかと思ったからだ。
そんなしょうもない私にそーたは厳しくも優しく接してくれた。
例え、あっちは友達だと思っていなかったとしても、私にとっては掛け替えのないと思える友達だった。そんな人を相談に乗れないだけで拒絶してしまい、距離を置いてしまったのだから本当に後悔している。
その日から、私は毎日学校にこっそり行ってはそーたを観察した。できれば謝りたい。そんなことを思いながら。
実際に何度も謝ろうとしたけれど、元気のないげっそりとしたそーたを見ると合わせる顔が無かった。
だからコンビニで会ったとき、反射的に無視してしまったのだ。
出た後も、無視をした。逃げている私を私は嫌いだと思っている。けれど、どう接したらいいか分からなかった。
しかし、そーたは私を引き止めた。
泣いてはいなかったけれど、今にも泣きそうな辛そうな顔と声で紡がれるそーたの言葉を聞いて、私は安心した。
やっと頼ってくれた。
怖かった。そーたがどこか遠くに行ってしまうのではないかと思って、どうしようもなく恐怖した。喧嘩をしたことがある人は考えすぎだと言うかもしれない。けれど、それすらもしたことない私は本当に怖かったのだ。
だから、どこにも行って欲しくなくて、あんな風に抱きついてしまったのだろう。小さな子どものような私をあやすようにそーたの大きな手は私の頭を撫でた。
その暖かさに涙が止まらなかった。
「……一緒に行こっか」
そーたは、やっと思い出してくれたのだ。そして私は思い知った。
ちゃんとそーたと私は友達だということを。
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