父についての談合
この部屋を作ったばかりの日。俺が片づけてから、後日部屋に入ったケイは狂ったように泣き叫んでいた。
あれは俺のパターンのせいか。
「あなたも内面に向くパターンですし、影響があるのは仕方ないです」
「……それでも、あるだろ」
「まだ若いのですから、これから学べばよいのです」
「年齢三桁なんだけど?」
いつまでたっても俺は大人にカウントされない。
「四桁を超えてから言いなさい」
シェルの年齢は五桁。
こいつのみならず、俺の父親とか先の“共通の友達”とかも五桁以上。アーカイブ代表の面子では俺が最年少という不思議。
……誰か新人入ってきてくんねえかな……
「新人が入ることを望むばかりでなく、探してスカウトしては?」
「無茶言うなよ」
見つかるわけがない。
「まだ2人空席があるでしょう?」
シェルの双子の姉は予知能力を持っており、その姉ちゃんが代表の総人数を予言したらしい。
代表全員で『詳しく聞けばいいだろう』とせっついたのだが、『俺は姉が嫌いです』の一言で拒否された。
「埋まるかわかんねえだろ」
アーカイブ代表とは『アーカイブを使う権利の幅』が最も大きな存在に与えられる称号みたいなもので、教導役を決めるのにもめた時とかは集まって話し合ったりとかする。
神秘分類の数だけ存在し、今のところ16人。
性格が濃すぎて集まったときに苦労する。話が脇道に爆走するし。
主にひぞれのせいだけどな!
「あなたのためなら、姉に渋々頭を下げて予知を願うのもやぶさかではありませんよ?」
「やだよ。3日くらい不機嫌になるじゃん、お前」
こいつが“姉”とだけ呼ぶ姉ちゃんは、さっきの予知能力持ちの双子の片割れ。
見る限り瓜二つなくせに仲が悪い。
「既に渋々とか言ってるだろ」
「む……」
シェルはしばらく考え込んでから、アルバム部屋のドアノブに手をかける。
「それもまあどうでもいいことです」
「……いい性格してるよな」
「片づけますね」
扉を開けると唇を小さく動かして無音の詠唱。アルバムが勝手に浮き上がって、本棚に収まっていく。
几帳面に整理整頓されていく光景を眺める。
「ところで」
「……なんだ」
アルバムは動いている真っ最中。会話の片手間に魔法を制御できるあたりが化け物じみている。
「ひぞれに小樽への旅行を打診されました」
「お前も行くの?」
「紫織が行きたいと言うので、スペルの調整についていきます」
聞くに、シェルの弟子の紫織は特異なスペルを持っているそう。
それを差し引いても“庇護すべき存在”には世話焼きだ。即答だっただろう。
「わかった」
ひぞれとミズリ、光太、座敷童。俺とケイ。ルピネと紫織。
シェルは座席が必要ないから、8人乗りのワンボックスに収まる人数。
狭かったらミズリになんとかしてもらおう。
理屈なしに空間を広げられるミズリは、ひぞれを喜ばせるために神としての能力を使うことも辞さない変態だ。
「ミズリはあなたの親戚ですよね」
「割と死にたくなるからやめてくれるか」
「ごめんなさい。あと、あなたの父親は何か言っていましたか?」
ミズリの変態性をしのぐ懸念は――小樽に毎年やってくる俺の実父。
「旅館を用意してくれるのはそちらなのですし、先に挨拶をしておこうかと思うのですが」
「……いや、いいよ」
メールの返信を見せる。
『from: vader
京ちゃんのお友達、たくさん来るんだね(*>o<)』
頭を使わずに打ち込まれたと思しき文面と楽観主義を極めた内容。
「なんか反応してくれ」
いたたまれない沈黙ののち、首を傾げたシェルが口を開く。
「……許容範囲ということですよね」
「たぶん」
俺はそこそこの長さでメールを送ったのだが、あの親父は質問に何一つ答えなかった。
紫織の体質とか、座敷童の佳奈子が家を動くこととか……ケイの精神状態についても相談したのに。
我が父ながら自由人。
「あなたの父はあなたの祖父に似ていますよ。血脈です」
「何が?」
俺の親戚は代があがるごとに狂気が増していくんだけど。
真意を問い詰めようとしたら目が逸らされた。
「いえ。それより諸々の相談を。同じ場所に座敷童とスペル持ちが集うことによって、京を刺激してしまう可能性があるということを話し合いたいと思います」
この野郎は方向転換が上手い。
ケイのことを切り出されたら断れない。
「……わかったよ」
話しているうちに、京も起きるだろうし。
ルピネもこいつを追いかけてくるはずだから。
予想通り、到着したルピネにシェルがこってり絞られている中、ケイは眠たい目をこすりながら部屋から出てきた。
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