第19話 移動

二人が向かった駅、というのは(100年前・・・と書くのも伝わりやすさに不安があるので)2019年と違って電車ではなく、透明のチューブのなかをゴンドラのような「キューブ」と呼ばれるものが高速で動いていくものになっていた。


二人は早歩きでそのキューブの入り口へと向かう。キューブはゆっくりと動きながらドアを開ける。開いたそばから二人は乗り込み、脇についているボタンを押してドアを閉め、ボタンの左についている小さなタッチパネルを操作し、目的地を『世界科学学会前』にセットした。


「ふい~」


大石は息をつくと、来る途中で買っておいたパンを袋から出し、食べ始めた。


その様子を見ながら深川はこの後の道のり、学会についてなど、情報を集めていた。


それぞれの時間を過ごす二人を静かにキューブは運んでいく。周りの景色はあっという間に過ぎ去っていき、一度都市を出て、赤い砂が舞う様子を外に見ながら、学会のある別の都市へと向かっていく。


学会のある都市に入るとキューブの天井についているスピーカーから案内が聞こえてくる。


〈間もなく世界科学学会前です〉


「お、そろそろだぞ ・・・ったく、おい!起きろ!」


キューブの中に深川の声が響いた。


「うおお!マジか!」


「マジだ!ほら、ドア開いたぞ」


大石が飛び起きるとほぼ同時にキューブのドアが自動的に開き、外の騒がしさが入ってくる。


大石はキューブからストッと降り立ち、深川はそれに続いて静かに出る。


「さーて、どうすりゃいいんだ!?」


「・・・言うと思ってたよ ついてこい」


大石の言葉に一瞬呆れを見せたものの、まずは着くことが大事と深川は先を急ぐ。


右へ左へと通路を歩いていく深川と周りをぐるぐると見ながらついていく大石。何度か大石が深川の姿を見失いながらも、無事に学会へと到着した。


「でけえな・・・」


「まあでけえけど、そこか?」


確かに学会は20階建ての大きい建物ではあったが、それ以上に深川の目に映ったのは、学会前の車寄せから入口の辺りにいる、入る人間を審査するかのように集まっている記者達の姿だった。


「っしゃー!行こうぜ!」


「あっおい・・・」


初めての学会にわくわくを抑えきれない大石が、入口へと駆け出した。それを追い、深川も慌てて駆け出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る