第11話 ある日の艦
場所を対策本部から大石達の艦に移すと、
深川がしばらく座り続けていた椅子を立ったところだった。
「うおおおお・・・」
「どーした深川?」
「ずっと姿勢変えずにいたら体が・・・」
「ほーん・・・、とりゃあ!」
大石が深川に飛び蹴りを浴びせた。
「痛てえ!急になにすんだお前は!?」
「いいか、そういう痛みはな、一回ものすごく悪くするんだ」
「・・・はあ?」
心底、とにかく底の底から呆れきった声で、呆れを表明する。
「よくここまで生きてきたもんだな、お前」
「どーいう意味だよ?」
「そのままの意味だ」
「そりゃ生きてるだろ 特に危ないことしてねえし」
「自覚がないやつが一番厄介だな」
「なんの自覚だよ~」
「常に自分に殺人予告を送っている自覚だ」
「一回も送ってねえぞそんなもん」
「やっぱり自覚がねえ」
「失礼だな~こう見えても周りが見えるって言われてるんだぞ!」
「周りが見えても自分のことを分かってねえし、そもそも周りも見れてはいない」
「いやいや、おれにも外面ってもんがだな」
「あるなら常に外面をしてくれ」
「リラックスさせてくれよー」
相変わらず、この仲の良さ。これでも2週間はずっとこの艦内にいるというこの事実が恐ろしい。まだまだ会話のネタが途切れることはなさそうだ。
「しっかしこりゃ失敗したなー」
「なにをだ?」
敷きっぱなしになっているマットレスに横になり、呟く大石に深川が聞く。
「いろいろやり残したなーって」
「なんだ・・・今日は何が起きる?今この瞬間に艦内に雨が降っても疑問を抱けないくらい意味がわからないことが起きてるぞ・・・」
「なんだそりゃ!おれが変なこと言ったか?」
「言った お前が、過去を、振り返った」
「振り返っちゃダメなのかよ!」
「キャラ的に絶対振り返らないタイプだろ!そして前にやった失敗を何度もやる奴だろ!」
「失礼な!前にやった失敗は5回くらいしか繰り返さねえよ!」
大威張りでそう言う大石に、堪えきれずに深川が笑い出す。そして大石も笑う。
「・・・で、何をやり残したんだ?」
笑いが収まってきて、本題へと移った。
「いや、彼女も出来なかったし、いつも行ってたあのレストランで一番高い『トリュフのキャビア載せ~フォアグラを添えて~』も食えなかったし、この本も読み終わってないし、ニュースにも載れなかった」
「・・・・・・」
やっぱりこういうことだったか、と深川は思った。突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めたがその気力すら無くなっていた。こいつは人の気力を吸い取る天才か、とすら思った。
大石は、大石で。今日という日はなんということもなく過ぎ去った。
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